聖なる気だるさ
ネットワーカー・沖縄支部 vol.03
町田恵美(フリーランスエデュケーター/コーディネーター)
もうすぐ梅雨が明けそうだな。そう思わせる大雨の週末を過ごした次の週、見事に平年より少し早めの梅雨明け宣言をした。Sさんが、糸満ハーレーが終わったら間近とも言っていたっけ。だいたい慰霊の日前後には明け、日差しの厳しさと伴に徐々に夏が到来する。
沖縄では公休日に制定されている「6月23日」は、太平洋戦争末期の沖縄戦の犠牲者を悼む日として県内各地で慰霊祭が行われる。最後の激戦地となった糸満市摩文仁の平和祈念公園では今年も「沖縄全戦没者追悼式」が開かれた。
その摩文仁から車で数分の距離にある糸満市米須に私設美術館「CAMP TALGANIE artistic farm / キャンプ タルガニー アーティスティック ファーム」は在る。世界一小さい現代美術館として2005年に開館した。木造平屋に加え、コンクリート造の建物で構成され、展示室の真っ赤な壁が印象的だ。米須が地域としては一番死亡者が多かったという歴史的事実をふまえ、「おろかなる戦争を決して忘れてはならない」という主の大田和人さんの想いが壁の色には込められている。
大田さんは、時々わからないことがあると私に電話をかけてくる。それはもちろん私が物知りだからではなく、以前「いま調べているけど、どうしてもわからない…」ことを携帯で検索してその場で解決したことがあったからだ。グーグルの力である。先日も、それこそ北海道にいるときに電話があり、「前に持ってきてくれた本の中の鷲田さんの発言で…」『ART BRIDGE02』のインタヴュー頁とまでは記憶を手繰り寄せたが、内容までは咄嗟に思い出せるはずもなく、後日かけ直す。でも、私がこないだ持っていったのは03だから、02は他の沖縄支部の誰かが持っていったのだろう、なんてことを思いながら。
キャンプタルガニーには独自のルールがある。そのひとつに、この場所が少々辺ぴなところにあることから、わざわざ遠くまで来てくれたことへの感謝に、大田さん自ら珈琲を入れてくれる。日没が近づくと、黄金色の水に変わることもある。ここはテレビもなければインターネットも繋がっていない、代わりに積み上げられた本と尽きないおしゃべりがある。この場所はチルダイ(聖なる気だるさ)の島、沖縄においても殊更ゆったりとした時間が流れているのだ。

*この訳については、大田さんと映画監督の高嶺剛さんとで考えたものです。キャンプタルガニーの由来についてはぜひ大田さんに聞いてみてください。
町田恵美(フリーランスエデュケーター/コーディネーター)
1981年沖縄県生まれ。沖縄県立博物館・美術館の教育普及担当学芸員を経て、今春よりフリーとなる。沖縄を拠点に、興味関心の赴くまま県内外を行ったり来たりしながら、沖縄(との関わりなど)について考えている。夏に行われるあいちトリエンナーレ2016コラム展示「交わる水―邂逅する北海道/沖縄」共同キュレーター。Okinawa artist interview projectメンバー。

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