仲宗根香織
Kaori Nakasone
場所と時間を超えて繋がる、見える沖縄
違う土地に行って新鮮に感じたり、新しく見る風景に感動したりする時、人はそれぞれにとって参照軸となる土地や風景の記憶との比較によってそう感じているのだと思います。また、軸であるはずのその土地で起こる風景の変化も、以前の風景と照らし合わせるなかで変化を感じているのではないかとも思います。私の中で軸にある土地は沖縄しかないのですが、沖縄とどこかの土地を繋ぎながら、過去の沖縄と現在の沖縄とを繋ぐ、というように、異なる土地や異なる時間を超えて、どのように「沖縄」とその「外」が、そして「沖縄」の中にあるはずの様々な時間が、どう繋がりながら変化しているのかを写真とともに考えていけたらと思います。
01 秘密のない風景

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 最近、古い飲み屋が連なる場所に、ギラギラとした巨大な資本の建物が突然やってきた。
 那覇牧志にある桜坂という地域は、米軍占領が始まった戦後間もない時期から、それぞれの土地を離れて定着した人たちによって「社交街」として発展してきた。映画館やライブハウスがあり、小さな飲み屋やおでん屋が連なる。若者が行くバーや、人生の先輩たちが心を癒すスナックなどがあり、また同性愛の方たちが憩うコミュニティーの場でもある。数年前から、街の様相が変わりだして、路地が続いてこっそりと飲みに行ける場所から、道路沿いに飲み屋が連なり、ちょっとした秘密も共有できない健康的な街になりつつある。そこに、昨年ごろから外資系の高級ホテルの建設が開始され、「那覇も一流都市の仲間入り」と銘打って今月オープンした。
 街の風景は、土地の歴史やそこに住む人々の息遣い、さらには年月を経て風化する建物の綻びなどによって変化を続ける。古くなった建物が新しくなり、住む人や訪れる人が入れ替わるなかで、風景は上書きされて、また新たなエネルギーとなって街が生成される。
 現在の沖縄の街は、新たに上書きされている真最中だと思う。私が住んでいる那覇の街だけを見ても、開発が進み、一瞬にして新しい街ができた気がするほど風景の移り変わりは凄まじい。以前、ここに何があったのかを思い出そうとしても、全く思い出せないのが不思議だが、思い出す暇もないほどまた新しい風景ができていく。
 このような街の変化を、すべて否定的に受け取ることはないだろう。便利になり、生活し易くなり、人々にとって良いことにつながっている部分もあるとは思う。しかし、その土地の歴史や匂いのようなものが無くなっていくことには少なからず心が痛むところもある。
 ホテル建設中に、桜坂でスナックの店主をつとめる女性にホテルが建設されることについて聞いてみると、「良し悪しの前に、観光客でも誰でもお客さんが多く来てくれて、店が儲かったら良いんだけどね…」と、少し複雑な心境も垣間見られるような言葉をもらった。この店主は長年働いて貯めたお金でこのスナックを購入して営業しており、毎年バスを貸し切ってお客さんと名護タンカン狩りツアーに行ったり、故郷の宮古島ツアーにも行ったりしていると嬉しそうに話してくれた。
 スナックの並びにある平敷商店では、近くの老人ホームから出てきたおじいちゃんが、缶チューハイを昼間から飲んでいた。「おかわり!」の声に、平敷商店のお姉さんが「もう飲み過ぎだから帰りなさい」と促し、とぼとぼおじいちゃんが帰っていく。小さなエピソードで、なんでもない光景だけれど昔ながらの社交街の、温かな人のつながりに胸が熱くなる。街がいくら変わろうとも、この人たちがいる場所は奪われてほしくないと思った。
 狭い道幅の両端に、煌びやかな玄関ホールが見える高級ホテルと、退色したコンクリートの壁から察するに50年は経っている建物が並列する気味悪さ。遠近感がない風景に足元がふらつくような感覚。目に見えない大きな資本の波と一緒に飲み込まれて、幻想かもしれない経済的効果の対価として大切なものを失うとはこういうことだ、と風景に船酔いのような感覚を持ちながら撮影した。

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