ムーニー・スザンヌ
Mooney Suzanne
都市で移動すること、都市と相互作用すること
全ての都市に、文化、歴史、そして特徴があります。馴染みの都市で、私たちは小道や通りを抜け、公共機関の交通網や、決められた道を使って、住居だけでなく、商業ビルや公共の建物の間を移動します。しかし、どれほど頻繁にそのルートから外れることがあるでしょうか?いつものルートの裏側、下、上、間や内側には何があるのでしょう。このレポートシリーズでは、私たちはどのようにある地点から別の地点まで移動しているのか、都市の壁の存在と、それを超えるもの、さらに、注目をされていない空間が、どのようにアートと交流の場として再利用されるようになったのかということについて考えます。
05 レジリエント・アーティスト
「レジリエンス」(回復力)は、世界中の大都市、また発展途上の都市においても、都市開発に関する議論の最新の流行語となりました。「レジリエンス」は生活の質、災害への対応、持続可能性の問題を含んでいます。「レジリエンス」という言葉と都市開発の組み合わせは、ロックフェラー財団によって使用され、特に「世界100都市のレジリエンス促進」プログラム※1とそのテーマにおける多くの記事※2を通じて知られるようになりました。しかしながら、巨大な財政を持つ組織が大義のために推し進める世界的計画に対して懐疑心を持ったのは、私だけではないはずです。それでも、そのアイデアの中には興味を惹かれる何かがありました。
都市がレジリエントである(回復力のある)とは何を意味するのでしょうか?

アーバン・レジリエンス(都市におけるレジリエンス)とは、都市で個人、地域社会、機関、企業、システムが様々な慢性的なストレスや厳しい、衝撃的な出来事を経験しても生き残り、適応し、成長することができる性質です。※3
Shinagawa, Tokyo, Dec. 2012
「レジリエント」は保存や持続可能性という考えを越えて、経済的、自然的、社会的な災害に対応できるシステムの必要性を提案しています。そのようなアーバン・レジリエンスは、都市が一つにまとまり、都市開発計画と共に機能すること、気候変動に対応すること、生活の基礎となるインフラを一新し発達させること、エネルギーと資源を管理すること、社会問題に対応し、住人が健康で安心できる状態を守ることなどが必要となります。それは多くの場合、公共と民間の協力により行われます。都市が発展し、生き残るためには、都市の構造と住民の有機的、無機的双方の結びつきにより、逆境に立ち向かう必要があります。意図は素晴らしいですが、それはまた、ディストピア(暗黒郷)小説の始まりのような気配が漂います。しかし、自然災害への対応と回復の必然性に駆り立てられ、そのような局面に耐えられる都市を作る戦略的なアプローチは、世界中のおよそ100都市で受け入れられました。
「レジリエント」な都市が栄え、安全性と順応性の実現が高まるにつれて、都市のアンダーカルチャーの中に、軽視され、切り捨てられるものがあるのではないかと私は思います。アートは多くの場合コミュニティを作り、文化を共有する手段とみなされますが、都市の発展する方向に適合しないアートやアーティストはどうなるのでしょうか?新しく発展した都市が破壊的なものや不協和音なものを含めるほどに「レジリエント」であるかについて、疑問を持ちます。
Wind farm, Spain, Aug. 2008
世界のどの地域でも、都市に構造的、経済的、文化的な変化が起こると、アーティストは必然的に影響を受けます。政治的な地位や、企業的な経済力のない脆弱なアーティストは、自分自身の「レジリエンス」が最も重要です。2007年から2008年のリーマン・ショックと、それに続く世界的な金融危機の余波により、アート業界は広く様々な方面で打撃を受けました。アーティストは世界各国で導入された緊縮経済に耐えるだけでなく、公的資金の削減によりアート業界の中でキャリアを維持することが難しくなりました。アイルランドの大学では経済危機の年に雇用凍結を行ったため、多くのアーティストが収入源としている非常勤講師の契約が更新されませんでした。ビジュアル・アーティスト・アイルランドの調査によると、アイルランドのアーティストの大多数は貧困ライン以下の生活をしており、その急激な落ち込みは2008年から2013年の間に起こっています。※4
Halted construction project, Sandyford Industrial Estate, South Dublin, Mar. 2012
Re-started construction project. The former Anglo Irish Bank development on North Wall Quay, Dublin (view from Docklands Luas stop, south-west), Aug. 2015
日本でも、1991年から2000年の“失われた10年”ほどではありませんが、長い期間にわたって不況が続いており、ほとんど回復していません。日本が近年直面した一番大きな課題は経済ではなく、自然災害に対応することでした。日本が災害を経験し、修復の道のりを辿るのは初めてではありませんが、2011年の東日本大震災の余波によって引き起こされた未解決の危機により、禁欲的になっています。災害の別の側面として、災害後、変化が起こった世界にアーティストが反応、順応し、ここには書ききれないほど数多くのアートイベント、プロジェクト、ボランティア活動、地域活性化などが東北地域の至る所で行われました。※5
Kesennuma, Japan, May 2011
Kesennuma, Japan, May 2011
アーティストにとっての「レジリエント」とは、何を意味するのでしょうか?
アーティストにとって、時代に順応し、変化することは不可欠です。アーティストのアトリエが都市の隙間に現れて、アトリエがなければ埋もれてしまったであろう地域やコミュニティの橋渡しとして機能することもあります。しかしながら、アーティストは都市空間の構造の急激な変化による危険にも晒されており、多くの場合、立ち退きに異議を申し立てる法的な手段を持っていなかったり、契約の更新ができなかったりします。
近年、ダブリンでは金融危機と不況により、市内の建設計画の遅れや中止によって数多くの空き物件が生まれました。ダブリン市議会は、アートプロジェクトやアーティストのため、空き物件のアトリエとしての利用を支援し、そのことによりアトリエが発展し、急増しました。しかしながら、建設計画の再開により定評のあったアトリエが突然閉鎖をよぎなくされ、多くのアーティストにとって厳しい状態となりました。(ブロードストーン・スタジオ(30アトリエ)、ブロックT(70アトリエ)、モキシー(30アトリエ)は、閉鎖を余儀なくされた一例で、他にも多くのアトリエ閉鎖の危機にさらされています。※6

しかしながら、「レジリエンス」なアーティストは、ワークスペースとギャラリーの不安定さと非永続性に適応する方法を見つけ出しました。アイルランドでは、アートへの財源の削除により、商業美術市場はほぼ存在していないため、パフォーマンス・アートが急激な盛り上がりを見せ、アイルランドの現代美術シーンを牽引しています。アーティストはギャラリーではなく、空き物件やアトリエでパフォーマンス・イベントを開催しています。パフォーマンス・アート・ライブ財団(P. A.ライブ)、ダブリン・ライブ・アート・フェスティバル、ライブストックなどは、パフォーマンス・アートの知名度の向上に貢献しました。「パフォーマンス・アート・イン・アイルランド・ア・ヒストリー」※7は、アイルランドで初めて現代パフォーマンス・アートについて出版された本です。パフォーマンスというその場限りの性質により、このような出版物なしには記録に残らない可能性が高かったパフォーマンス・アートが文章化され、この時代の主流なアートの傾向として認識されました。
他にも、「レジリエント」で政治的に活動的なアートグループに、“ウェイキング・ザ・フェミニスツ”(フェミニストの目覚め)があり、舞台で女性の平等を唱えています。全ての分野のアーティストを集め、第 8 回憲法改正法によって改正された、女性の身体の自立性を否定するアイルランド憲法の条項の廃止を求めています。

危機を迎えると、アートとそれに携わる人々は、問題を解決することと逆境に耐えるための創造的手段を見出す必要性に駆り立てられて、強さと活力を見つけ出すようです。アーティストとして、女性として、学生として、住民として、老いていても、若くても、特権階級者であれ、そうでなかれ、少数派であれ、多数派であれ、個人として、または全体として、「レジリエンス」について考えることは重要です。

「レジリエンス」に必要なのは、防護壁だけではありません。抵抗する力と共に柔軟性も必要です。アートをキャリアとして選んだ人であれば誰でも、柔軟性がなければ破産に追い込まれ、可鍛性(衝撃や圧力で破壊されることなく変形できる個体の性質)を持つと平均的なアーティストとして忘れ去られることをよく知っています。予測不可能な将来に備えるべく、社会に変化が起こる潜在的な時期を積極的に探し、見つけ出すことを意味します。
都市を「レジリエンス」にするにあたっては、準備ができることとできないことがあります。しかし、私たちは社会をかたち作ることに参加することができます。また、参加方法も様々です。アーティストとして、イメージや言葉、音楽でコミュニケーションがとれますし、市民としてデモに参加したり、消費者としてお金の使い道を選ぶこともできます。友人との会話や地域社会の繋がりで私たちが築き上げる、個人的な関係も公の関係も、「レジリエンス」を高めています。居住している都市空間と共に発展することを強要されるかもしれませんが、私たちには特にアーティストとしての役割があります。疑問を投げかけ、抵抗し、粘り強く取り組み、近い将来の「レジリエント」な都市で、アーティストにとって適切な役割を見つけ出し、それを果たす必要があります。
(日本語訳協力:Ayami Mori)
※1「世界100都市のレジリエンス促進− ロックフェラー財団」、ロックフェラー財団
※2「レジリエント・シティズ」、ザ・ガーディアン
※3「シティ・レジリエンス」、2016年3月9日アクセス
※4「サポーティング・アーティスト・アンド・クリエイティブ・ワーカーズ – アズ・パート・オブ・ザ・レスポンス・トゥ・カルチャー2025オン・ビハーフ・オブ・ビジュアル・アーティスト・アイルランド – ビジュアル・アーティスツ・アイルランド」
※5 「TPF2 – 東北プランニングフォーラム」東北で行われたアート関連を含むイベント、グループの編集可能なオンラインのリスト
※6 「ラック・オブ・スタジオ・スペーシーズ・フォー・アーティスツ・イン・ダブリン」ジョン・ケニー、カルチャー・ヘッド、2016年1月20日
※7 アーニェ・フィリップス、「パフォーマンス・アート・イン・アイルランド:ア・ヒストリー」、(インテレクト、2015年)
Resilient Artists
Resilience has become the latest buzzword for discussions around urban development in the world’s cities great and developing, incorporating issues of quality of life, disaster response and sustainability. The pairing of the term resilience with urban development has been fore fronted by the Rockefeller Foundation, particularly through its 100 Resilient Cities programme, and a slew of articles on the theme. Although I, and not alone, find my inner sceptic roused by such a financial giant of an organisation pushing a global agenda for the greater good, there is something in the idea that drew my interest.
What does it mean for a city to be resilient?

Urban resilience is the capacity of individuals, communities, institutions, businesses, and systems within a city to survive, adapt, and grow no matter what kinds of chronic stresses and acute shocks they experience.
Shinagawa, Tokyo, Dec. 2012
The resilient surpasses ideas of preservation and sustainability to suggest the need for a system or systems to enable a city to respond to disasters—economic, natural, or social. Such urban resilience requires a unifying of the city, working in unison through developments in urban design, combating climate change, renewal and progression of infrastructure, management of energy and resources, processes of dealing with social problems and the safeguarding of the well-being of its citizens, often through public-private partnerships. The organic and the inorganic intertwine as the city, its structures and its inhabitants as one entity, fight adversity to develop and to survive. Though admirable in intentions, it also smacks of an image conjured in the lines of an opening chapter of some dystopian novel. However, spurred on by the need to respond to and recover from natural disasters throughout the world, a strategic approach to building cities that can sustain such challenges has been embraced by nearly one hundred cities worldwide. As resilient cities flourish, and with security and adaptability closer to being realised, I wonder whether some pieces of the city’s under-culture will be neglected or discarded. The arts are viewed in many cases as a means for building community and a shared culture, but what of the art and the artists that do not fit with the direction in which the city en masse is developing? I wonder whether the new improved city will be resilient enough to include the other, the disruptive, or the dissonant.
Wind farm, Spain, Aug. 2008
In any and all parts of the world, as the cities of our time change structurally, economically and culturally, their artists inevitably find themselves affected. Without political position or the economic clout of big businesses, artists are vulnerable, and a resilience of their own is paramount. After the Lehman shock of 2007-2008 and the ensuing aftershocks of the global financial crisis, the arts community at large were hit with the effects from multiple directions. Not only has the artist had to sustain austerity measures introduced in countries worldwide, but also cuts to public funding have been detrimental to maintaining a full-time career in the arts. In Ireland, universities endured hiring freezes in the years of the financial crisis, resulting in the non-renewal of part-time lecturing contracts on which so many professional artists rely. According to Visual Artists’ Ireland surveys, the majority of artists in the country live below the poverty line, which a steep decline occurring between 2008 and 2013.
Halted construction project, Sandyford Industrial Estate, South Dublin, Mar. 2012
Re-started construction project. The former Anglo Irish Bank development on North Wall Quay, Dublin (view from Docklands Luas stop, south-west), Aug. 2015
In Japan too belts have been tightened, and although the impact is not quite on the scale of the Lost Decade (1991-2000), it has been a long slow road of little recovery. The biggest challenge Japan has faced in recent years has not been economic, not yet, but instead has had to deal with natural disasters of biblical proportions. The country is no stranger to disasters and the ensuing road to repair, stoic in the yet unresolved crises to come about in the aftermath of the 3.11 disaster of 2011. In Japan artists have responded and adapted to the changed world that one finds on the other side of disasters, with an incredible number of art initiatives, projects, volunteer work and community-building, far too numerous to list here, taking place throughout the Tohoku region of Japan.
Kesennuma, Japan, May 2011
Kesennuma, Japan, May 2011
What does it mean to be resilient artists?
Artists have always been required to adapt and change with the times. Artists’ studios appear within the gaps of the city, and can even act as a bridge for areas and their communities who might otherwise fall deeper through the breaks. However, they are also at risk from sudden changes in the structures of urban spaces, and often lack the means to legally challenge eviction or the non-renewal of a property lease. Recently in Dublin after a surge in the development of studio groups, resulting from the slow-down and cessation of construction projects in the city and the resulting high number of vacant properties, the sudden closure of some well-established studios has left many artists is disarray. Broadstone Studios (30 studios), Block T (70 studios), Moxie (30 studios) are just some of the studios that have been forced to close and many more are under threat. But true to their resilient natures, artists have found ways to adapt to instability and impermanence of workspaces and galleries. In Ireland, a strong upsurge in performance art has taken the lead in the world of Irish contemporary art. Performance Art Live Foundation (P. A. Live), Dublin Live Art Festival, and Livestock have taken active roles in pushing the visibility of performance art, and the publication of “Performance Art in Ireland A HISTORY” has ensured that despite its temporal nature, this trend in the performative will not be omitted from the writing of the mainstream art history of these times. Other resilient and politically active groups in the arts in Ireland today include “Waking the Feminists” advocating equality for women in theatre, “Repeal the 8th” calling for artists from all disciplines to unite in the call for the abolition of the 8th amendment to the Irish constitution that denies women bodily autonomy. It seems that in times of crisis, the arts and its associates find strength and vigour in adversity, inspired by problem solving and the need to find creative means to endure. As artists, as women, as students, city-dwellers, old, young, privileged or not, minority or majority, individually or together, it is worth taking a moment to consider our resilience.
Resilience requires more than a protective barrier. It requires resistance combined with flexibility. As anyone who has chosen a career in the arts knows all too well, inflexibility will leave you broken, and malleability will leave you averaged out and forgotten. Preparing for the challenges of an unpredictable future means actively seeking out and identifying potential points of change within our societies. As is the case with making a city resilient, there are challenges for which one can prepare and others for which we cannot. But what we can do is to participate in the shaping of our cities. Our active participation can take any form. As artists we might communicate through images, words or music. As citizens we may choose to demonstrate. As consumers we can make choices about how our money is spent. In the conversations among friends and the building of communities, the connections we forge with one another, private and public, facilitate our resilience. Though we may be pushed to develop along with the urban spaces we occupy, we have a role, particularly as artists, to question, resist and to persevere, and to play a part in finding a pertinent role for the artist in the resilient cities of this near future.

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