関川歩
Ayumi Sekikawa
越境 / メディア / 草の根
1940年代、皇民化運動が高まりを見せる日本植民地下の台湾で、民俗資料の収集と記録を目的に発行された雑誌『民俗台湾』。ABIの活動で出会って以来、この雑誌を片手に、台湾と日本の関わりやそこから広がる様々なことについて考え始めた。ここでは日本と台湾におけるアート・プロジェクトや芸術祭、また私自身のフィールドワークも紹介しながら、記憶の共有と未来への協働について考えていきたい。
01 南方以南 the Hidden South

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photo by Rosaline Ru
呂孟恂さんと、芸術祭「南方以南 The Hidden South」を訪ねた。現代美術を対象にした芸術祭の開催は、台東では初の試みである。

達仁、金峰、大武、太麻里という4つのエリアと、それらを結ぶ台九南廻行路を会場に、作品が点在する。
台北、海外からの参加も含め、アーティストは20組ほどで、芸術祭の規模としては大きくない。車さえあれば1日でおおよその作品を見て回ることもできるが、なかには辿りつくのが難しい作品もあり、キャプション以外に目印のないその場所で、なぜここに作品を展示したのかとキュレーターの意図を考えさせられる。
青い海と緑深い山々。作品を巡る旅路も、また魅了だった。

台東はもともと台湾原住民が多く住む土地で、彼らのコミュニティと現代美術との協働や融合もコンセプトのひとつであった。
漢民族が移民してくる前から台湾に住む先住民のことを、台湾では尊敬の念も込めて「台湾原住民」と呼ぶ。台湾政府はアミ族やタイヤル族など16族を認定し、近年は彼らの文化を再発見するようなプロジェクトに力を入れている。
この芸術祭の地域コーディネーターを務めたチャン・イーマンさんは、台湾で3番目に多いパイワン族をルーツに持つ。
いまは台南を拠点に作家活動をしているが、生まれは台東で、この芸術祭では台北や海外から訪れたアーティストやキュレーターとコミュニティを結びつける役割を担っていた。

チャンさんに案内してもらった作品のなかから、いくつかを紹介する。
フィリピンの作家、デックス・フェルナンデスはパイワン族のコミュニティにレジデンスし、彼らへのヒアリングをもとにした壁画を描いた。
巨大な黒板を前にするように、チャンさんが壁画を指さしながら説明してくれた。登場するユニークな生き物、細かな模様や言葉。外部から訪れた私たちには、そのひとつひとつが原住民の生活や文化を紐解くためのヒントになる。
この地に住むパイワン族の作家、陳幸雄、劉晉安、陳文意が自宅の敷地内に展示したのは、竹で編まれた彫刻作品。鯨のような形をしたその下には、いくつかの椅子が置かれている。
伝統的なパイワン族の家には、来客のための半公共的な空間があるそうだ。作品であり、同時に人を迎える場所。椅子に座って眺めてみると、青い海と空を一望することができた。
アーティストではなく、住民が作成した作品もある。
パイワン族が暮らす大鳥集落の入り口には、政府が発注した業者が描いたパイワン族の姿が、外からの人々を出迎えていたそうだ。だが大鳥集落に暮らす人たちは、その均一化されたイメージに違和感を感じていた。
大鳥集落の人々と、「自分たちがイメージする姿で来客を迎えよう」と新たな壁画制作に取り組んだところ、衣装や色の使い方などに、他の種族の文化的特徴が見られたそうだ。
パイワン族という分類ができたのは日本統治時代のこと。集落ごとに他の部族から影響を受けている場合もあり、一概に判断できるものではないという。
最後に立ち寄ったのは、吳思嶔の作品。河原に置かれた石に携帯電話のアプリをダウンロードしかざしてみると、テテテテテ!と奇妙な声が聞こえてきた。
携帯の画面に登場したのは、全身真っ黒な小人。台湾原住民の多くの種族に目撃談が残る、かつて森に住んでいたと言われる伝説の種族だ。大鳥川に沿って開かれたこの場所も、かつて黒い小人が目撃された場所の一つであった。ARで蘇った小人は、かつてここに見えていた風景について語り始めた。

The Hidden South、隠れた南。どの作品も一見しただけではわからない、土地の記憶とつながっている。芸術祭を通してそれらを掘り起こし、継承していくためのきっかけが生まれているように感じた。台東には、まだまだ「隠れた南」が眠っているのだろう。

次年度以降の開催は未定だそうだが、この試みがなんらかの形で続いていくよう、期待している。

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