故郷をめぐる旅 新潟編 巻き返す土地、行き来するわたしたち
ネットワーカー・新潟支部 vol.03
原 亜由美
日本では7月に参院選、東京都知事選と続いた。イギリスではEU離脱派が国民投票を僅差で制し、来る11月には注目の候補者同士によるアメリカ大統領選を迎える。一票を投じる行為について、意識が高まっている時期と言える。
そんななか、「巻原発住民投票」から20年を迎える旧・巻町(現・新潟市西蒲区)では、この夏、『巻原発住民投票から20年 〜明日の巻地域を考える〜』と題されたシンポジウムが行われる。また、旧・巻町に隣接する「新潟市岩室観光施設いわむろや」では、資料展『巻原発の発表から住民投票が終わるまで』が、開催中だ。

会期前日、設営中の会場に、主催の一人、斉藤文夫さんに会いに行ってきた。斉藤さんはもはやわたしの連載のレギュラーのようである。展示の写真や資料は圧巻で、当時「民主主義の学校」と称された巻の住民力を思い知らされた。この力は一体どこから湧いてくるのだろうか。土地に由来している気がしつつ、具体的にそれが何であるのか掴みきれないまま、わたしは巻に通い続けていた。
設営の手伝いをしていると、巻という地名の話になった。かつての信濃川は低湿地に入るとだらだらと広がり、海へ流れ込もうとする。ところが角田山に遮られて、流れを変えざるを得なかった。そのため、流れを巻き返す土地ゆえに巻とする説があるという。斉藤さんの話を聞きながら、わたしは「それだ」と思った。反骨とも違う、流れは変わるという自然の意識が、この土地の人にはある。
海際の山に当たって流れが変わると、川砂が堆積して海岸砂丘ができる。その新潟砂丘の上に建つ、その名も砂丘館で、新潟出身の美術家・阪田清子さんの展示『対岸—循環する風景』が8月後半から開催される。詩人・金時鐘(キム・シジョン)の長篇詩集『新潟』をモチーフにしたインスタレーションだ。会期中開催される、海水から塩を作るワークショップの講師が何と斉藤さんだったので、わたしは阪田さんが掲載されている『ART BRIDGE 02』を斉藤さんに見せた。斉藤さんは記事を見て、「どことでも繋がっているね」と、案外こともなげに言った。

巻の住民投票については、今年5月発行『Life-mag. 巻編』の関係者インタビューに詳しい。編集発行人の小林弘樹さんにも、編集室のある新潟市へ7月初めに『ART BRIDGE』を届けた。小林さんは、8月のシンポジウムで司会を務める。小林さんは巻町に隣接する岩室の出身だが、司会を頼まれたときには戸惑いもあったという。主催の方々に相談すると、「小林のやり方で振り返るのが大事」と言われたそうだ。斉藤さんから再三会うよう勧められていたせいか、小林さんとは初対面という感じがまったくしない。市場の丼屋で、笑顔で語る小林さんを見ていると、斉藤さんらが彼に司会を託した気持ちがわかる気がした。
行き来するわたしたちのあいだには、水の土地・新潟があり、介在する印刷物は船のようでもある。
船は船でも宇宙船、ABIの港ディレクターとP3 art and environmentの統括ディレクター芹沢高志さんが中心となり、『言葉の宇宙船』を離陸させようとしている。わたしには、このプロジェクトの意が、最初から妙に腑に落ちている。水の土地からもたらされた感覚なのかもしれない。
原 亜由美
1975年新潟県新発田市生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科美学美術史専攻卒。大学在学中に音楽雑誌出版社編集部アルバイト勤務後、映画宣伝会社を経てレコードメーカーで音楽CDジャケット、パッケージ等の制作業務を担当。2007年フリーランスの制作コーディネイターとして独立、写真展等の展示企画にも携わる。
東日本大震災と前後して東京から活動拠点を地元・新発田市に移す。東京での活動を継続しつつ、2013年より写真の町シバタ・プロジェクト実行委員会に参加、事務局運営に従事。2014年度より敬和学園大学新発田学研究センター一般研究員の他、授業助手や地域コーディネイターを兼務。
2015年度BRIDGE STORYライター。2016年度ABIネットワーカーとしての活動と並行し、新潟のハワイ移民等、土地と記憶にまつわるテーマについてリサーチ中。

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