北海道音威子府編
ネットワーカー・沖縄支部 Vol.1
町田恵美(フリーランスエデュケーター/コーディネーター)
『公益質屋跡』photo by Satoshi Hata
『ART BRIDGE03』で紹介されている美術家の岡部昌生さんの出身地、北海道へ行くことになり三冊リュックに忍ばせた。誰に渡すかは決めずに。
岡部さんは私の出発直前まで沖縄にいて、伊江島で滞在制作をしていた。伊江島は、沖縄本島北部から北西に9キロ、船で僅か30分の距離に位置する離島である。この小さな島で「鉄の暴風」と呼ばれる米軍の艦砲射撃の激しさを物語る記憶の痕として、大きな穴の空いた「公益質屋跡」を擦り取った。村指定史跡となる建物には厳重な足場が組まれ、その様子を建築家の真喜志(好一)親方と見に行った。岡部さんが作業計画を相談した際に真喜志さんがアドバイスをしたようで、さながら現場確認という訳である。
岡部さんが北海道に帰る前の晩、お酒の席で「真喜志さんと話しているとビッキを想い出す。」と話していた。砂澤ビッキはアイヌの血を引く彫刻家で自然と共生するような作風で知られる。岡部さんは生前親しく付き合いがあった。「北海道に行くならビッキのとこにも行ったらいいよ。」その言葉を受け、音威子府(おといねっぷ)にある「砂澤ビッキ記念館」を訪れた。
小学校を改装した建物は、アトリエとして使用されていた面影を残す。雄大な山を背景に自然に囲まれたこの土地に生きたひとりの作家のことを知る。冬場は閉館しており、ほんの数日前に開いたばかりだと展示室の奥にある喫茶スペースにいたスタッフの方に聞いた。ここに来た理由を話そうと岡部さんのことを切り出すと、「よく知っています。」と返事が!以前、岡部さんがこの記念館で展示をした際にお手伝いをしたのだという。館を出て数歩…あ、彼に渡そう。そう思い、車に戻り『ART BRIDGE』を手に再び。忘れ物でもしたのかという表情が、雑誌に写る岡部さんの姿をみつけ笑みに変わる。よろこびが伝わってくる、この出会いを岡部さんに報告しようと思いながら風の纏う土地を後にした。
砂澤ビッキ記念館
町田恵美(フリーランスエデュケーター/コーディネーター)
1981年沖縄県生まれ。沖縄県立博物館・美術館の教育普及担当学芸員を経て、今春よりフリーとなる。沖縄を拠点に、興味関心の赴くまま県内外を行ったり来たりしながら、沖縄(との関わりなど)について考えている。夏に行われるあいちトリエンナーレ2016コラム展示「交わる水―邂逅する北海道/沖縄」共同キュレーター。Okinawa artist interview projectメンバー。

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