故郷をめぐる旅 番外編新潟、福島、ロサンゼルス 故郷を離れて見た光と夢
ネットワーカー・新潟支部 vol.04
原 亜由美
Art Bridge Instituteの活動が文字通りの橋渡しとなって、2016年秋『福島写真美術館成果展プロジェクト+新発田』が開催された。
はま・なか・あいづ文化連携プロジェクト成果展は、2016年から2017年にかけ、それぞれの内容で、長岡、新発田、松本、水俣、福島と巡回した。巡回展という旅の寄港地のひとつに、新発田を選んでもらえたことがうれしい。そしてその巡回展は、わたしを新たな旅へと連れ出してもくれた。2016年11月には避難区域をめぐる福島の視察に参加し、翌月には新発田の後の松本での展示にも足を運んだ。場所が変わると見方も変わる。巡回展のスタイルが、かつての場所に戻れないでいる人へと思いを向かわせる。

新発田での展示に写真家・岩根愛さんの『Island on my mind』という360度回転式カメラ、コダック・サーカットで撮影された福島のパノラマ写真シリーズがあった。このパノラマ写真は、1900年から1970年頃、ハワイの日系移民の間で流行したものだ。岩根さんはパノラマ写真をはじめとする日系移民文化に触れ、フクシマオンドのボンダンスを題材にした『ハワイ島のボンダンス』を担当するなど、写真家の枠を越えた活動をしている。新潟と福島は、ハワイをはじめ南北アメリカに、東日本最大規模の移民を送り出した土地だ。
2017年1月にアメリカ、ロサンゼルスで開催された『Transit Republic』の展示に岩根さんのパノラマ作品も出展されることとなり、わたしもリサーチと合わせて渡米した。『Transit Republic』については、2017年3月発行の『ART BRIDGE 05』の特集に詳しい。アジア太平洋地域のメンバーがL.A.で邂逅し、それぞれのテーマを重ねる。奇しくもトランプ政権誕生の瞬間を挟み、境界線をもたない場と関係性のインスタレーションに立ち会えて、とてもわくわくした。
L.A.で、そこかしこにビルボードを見かけた映画『ラ・ラ・ランド』を、帰国後、夜の映画館で観た。『ラ・ラ・ランド』ではシネマスコープが採用されている。高台からのパノラミックな風景やミュージカルならではの群舞がスクリーンに映え、カメラが360度に回転するシーンもある。わたしは日系移民のパノラマ写真を思い出していた。短いL.A.滞在中、ギャラリーだけでなく日系移民博物館や日米文化協会を訪ね、資料を集め、人と会った。日系移民は冠婚葬祭などの記念としてパノラマ写真を好んだ。故郷を離れて、こんなに大勢の人と新しくつながった、その光を焼き付けておきたかったのだろう。新しい土地で、夢を、たしかに見ていた人たちがいる。旅のもたらすパノラミックな視野とネットワーク、移民とはネットワーカーの先達であると感じた。
原 亜由美
1975年新潟県新発田市生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科美学美術史専攻卒。大学在学中に音楽雑誌出版社編集部アルバイト勤務後、映画宣伝会社を経てレコードメーカーで音楽CDジャケット、パッケージ等の制作業務を担当。2007年フリーランスの制作コーディネイターとして独立、写真展等の展示企画にも携わる。
東日本大震災と前後して東京から活動拠点を地元・新発田市に移す。東京での活動を継続しつつ、2013年より写真の町シバタ・プロジェクト実行委員会に参加、事務局運営に従事。2014年度より敬和学園大学新発田学研究センター一般研究員の他、授業助手や地域コーディネイターを兼務。
2015年度BRIDGE STORYライター。2016年度ABIネットワーカーとしての活動と並行し、新潟のハワイ移民等、土地と記憶にまつわるテーマについてリサーチ中。

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