2020-summer-story
リレーコラム
同時代 / 日常 / 新様式
2020年7月、新型コロナウイルスによって私たちの日常が揺らぎ始めて半年が経つ。
感染拡大を防止するための「新しい生活様式」のなかで、私たちは何かをつくることができるのだろうか?
各地を旅し、メディアをつくり、人や物の間に「橋(ブリッジ)」を架けてきたArt Bridge Instituteのメンバーが、この6ヶ月を振り返る連載。
02 8月12日 台湾
私たちに必要なのは理解されることであり、宣伝されることではない。私たちは娯楽を提供する人ではなく知識人として認められることを求めている。私たちが求めているのは観客ではなく仲間である。私たちが求めているのはライバルではなくメンバーである。私たちが求めているのはただ発せられる声だけではなく、強い精神視野を持つ人である。何より重要なのは、異国情調のある少数民族ではなくオールラウンドな人間である。

— ギリェルモ・ゴメス=ペーニャ
「多文化モデル:国家的なアートコミュニティへ」より


台南芸術大学博士課程の教授・龔卓軍氏(ゴン・ジョジュン)が、9月発行の雑誌『藝術家』(藝術家雜誌社)の寄稿の冒頭にこのメキシコのパフォーミング・アーティストのギリェルモ・ゴメス=ペーニャの言葉を引用した。彼は文化について論じるとき、国、民族、集落である前に、人間であることを指摘する。現在の新型コロナウイルスによる状況にもあっていると思う。

「人新世」とは、人類が地球の地質や生態系に重大な影響を与える発端を起点として提案される想定上の地質時代だが、人間中心の思想を広げることではなく、逆に人間中心になった世界がどうなっているかについて反省するべきだろう。
厳しい状況になっている今、私たちは如何に子どもたちを教育すればいいのか。この世界の状況と、これから向かっていく未来をどうやって子どもたちに伝えればいいのか。そこで、台湾で行われている活動を紹介する。

龔氏が発起人として、2019年4月に台南で『小事報』という子どもの編集部を設立した。アート専門誌として台湾で評価される『ACT芸術観点』の編集長であり、30年以上もの編集経験を持つ龔氏は、6つの小学校の子どもたちを南台湾である曾文渓の流域に集め、原住民集落を回り、原住民たちにいろんな技能を学び、実世界を感じながら、編集するプロセスによって、「小さい事とも大きな事」、生きることの全てを大切にするという考え方を子どもに教え、他者との繋がりや世界との関係を意識させた。
子どもたちが書いた新聞記事には、彼らが自然と身近になったことを感じさせる「暗い雲に捨てられて、土地に収養された。」という風景を読んだポエムも書かれていた。教科書から学ぶことだけでは実感がなく、それとともに大自然に踏み入れて、そこから子どもたちが想像できる身体感の上で、本当の知恵の学びが始まると龔氏が指摘する。

もう一つ面白いプロジェクトは「南方以南—大地芸術祭」のキュレーターを務めた林怡華氏(エバ・リン)と陳豪毅氏(ハウイ・チン)が行っている「アミ族料理室(kofaw)再建計画」だ。伝統的なアミ族の家の中で、台所は全ての中心であり、一番重要な場所である。なぜかというと、アミ族の文化では、台所とは生活の始まりであり、多様な工芸のかたまりでもある。
エバさんとハウイさんが青年たちを連れて、集落の老人たち一人一人に話を聴きながら、古い記憶の中にあるアミ族の台所を描き出して、実際に再建している。台所を建てるためには、採集や織り、植物を育ててお酒を作る方法など代々伝わってきた知恵を学ばないといけない。つまり、台所はアミ族の教育の場であり、文化の文脈とも言える。

冒頭に引用した言葉の通り、台湾の原住民族や世界中にある少数民族の文化を大切にする理由は珍しさではなく、異なる文化の文脈の中に、人間として知るべき知恵があるからだ。
新型コロナウイルスに覆われた今、この2つの新たな教育プログラムを通して、「知識とは何か」、「文明とは何か」について改めて考えさせられるだろう。


執筆:呂孟恂(ロ・モンシュン)
『小事報』より

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