ぬかつくるとこ
nucatsukurutoko
ぬかつくるとこの不思議
「ぬか つくるとこ」は、岡山県にある福祉事業所です。 毎日様々なひとが行き交い、生活のなかでおこるささいなデキゴトに目をむけ、 それに一喜一憂し、 成功も失敗もできる場所。「ぬか つくるとこ」という一風変わった名前の由来は、漬け物などを 漬けて発酵させる「ぬか床」から来ています。個々の魅力が「ぬか漬」のように時間をかけてゆっくりと発酵し、社会へと広がって行くことを願って付けました。そんな「ぬかつくるとこ」の日常を、少しずつ紹介していきたいと思います。
04 コイケノオイケ

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「ぬかつくるとこ」ではアイデアラッシュという会議が不定期に行われている。アイデアラッシュをする際は、出された案は否定しない、お金がかかるかからないは問わないを柱に意見が交わされていく。毎回1時間30分で終えようとするが、結局会議は3時間近くに及んでしまう。というのもいつも色々な方向に話が枝分かれしてゆき、なかなか終われないのだ。あえてそれをまとめようとする人もいないのである。だからこそ、そこから多くの言葉が生まれた。「コイケノオイケ」もそのひとつだ。
新聞ちぎり中の小池さん
小池佑弥さんには知的障害がある。ぬかには土曜日の数回通って来られているのだが、小池さんが生業としているのが「イタズラ」と呼ばれるものである。ひょっとしたら小池さんにとっては当たり前の行為で、イタズラとは捉えていないかもしれない。しかし、その行為をしたあとの小池さんのとびきりの笑顔と甲高い笑い声を聞くと私たちは「イタズラ」を成し遂げた後の達成感だと捉えてしまう。そしていつも、してやられた感を味わってしまうのだ。やってはダメと言われるとやりたくなる。困った顔をされると楽しくてしかたがない。やりたいことをやり遂げると嬉しくてたまらない。おそらく「やっていいよ」と言われたらしなくなるかもしれない。小池さんのアドレナリンを放出するための「イタズラ」である。

見えるスイッチは押してみる。
水が出そうな蛇口はひねってみる。
事務所の前にお供え物を置いてみる。
事務所の入り口の隙間からいろいろなものを入れてみる。

どれも小池さんの生活にとって大切な役割の一つである。そんな中でも一番はまっているのが「新聞ちぎり」。ありったけの新聞を置いても、あっという間に全てをちぎり、部屋中、新聞だらけになる。小池さんにとって新聞は、ただちぎるためだけの道具ではない。ちぎりながら気になる言葉を確かめ、そして新聞の破れる音も楽しみながら、どの瞬間も感覚的に新聞を愛でていく。
新聞をちぎり散らかす行為は一般的に良しとされる行為ではない。しかし、「ぬか」ではゆるされ、それに小池さんも応える。ちぎり終わったあとにゴミ袋を渡すと、それを全て入れてくれる。それが小池さんの重要な役割となっている。いつしかその袋を捨てずに貯めておくようになった。
お池の主
その眼差しはプロフェッショナル
「コイケノオイケ」とは「小池さん」の「お池」、「お池」とは「小池さんがちぎった新聞でうめつくされた部屋のこと」。小池さんは「新聞ちぎりのプロフェッショナル」。また「お池の主」としていつもそこにいる。

岡山市の内山下小学校という廃校になった校舎で様々なワークショップが行われる「マチノブンカサイ」というイベントに「コイケノオイケ」の主として参加した。小池さんがそれまでにちぎった新聞をすべて出してひとつの教室を埋め尽くし、新聞の中で遊んだり、ちぎったりと自由にできるスペースを作った。それまでにちぎり貯めた袋は50袋以上、瞬く間に教室が新聞だらけになった。子供から大人まで多くの人たちがこの非日常的な空間で大はしゃぎ。新聞の中に潜ったり、新聞を空中に投げてみたり、もちろん新聞をちぎったり、時には新聞でコスプレをし始める子供たちも出てくるほど。そんななかでも、トレードマークである新聞でできた大きな蝶ネクタイを身につけた小池さんは、まるでお池に命を吹き込むかのように淡々と新聞を愛でながら、ちぎり、投げ入れていく。その姿はまさに「お池の主」そのものだった。

ただちぎった新聞を入れているだけの空間、特に何かをしようという提案はしていない。なのに大量の新聞を目の前にすると、なぜかテンションがあがってしまう。やっていることは単純なことなのに、なんだか楽しくなってしまう。
お池の主の念なのか?
何なのか?
「コイケノオイケ」は摩訶不思議な空間となった。
お池で大はしゃぎの子共たち
コイケハット
シンブンチョウネクタイ
片付けまでワークショップ
プロフィール
小池佑弥  
イタズラをする。周囲の人が固まったり、慌てたり、時には笑ったりする表情が大好物。いわばちょっかいを出すことで成立するコミュニケーション。新聞をちぎる感触や音、また、淡々と記事を読みながらやぶっていく姿はまさに職人。無邪気で、時にはしたたかに世界を楽しむのが小池流。

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