ぬかつくるとこ
nucatsukurutoko
ぬか日和
「ぬか つくるとこ」は、岡山県にある福祉事業所です。 毎日様々なひとが行き交い、生活のなかでおこるささいなデキゴトに目をむけ、 それに一喜一憂し、 成功も失敗もできる場所。「ぬか つくるとこ」という一風変わった名前の由来は、漬け物などを 漬けて発酵させる「ぬか床」から来ています。個々の魅力が「ぬか漬」のように時間をかけてゆっくりと発酵し、社会へと広がって行くことを願って付けました。そんな「ぬかつくるとこ」の日常を、少しずつ紹介していきたいと思います。
01 「ぬか つくるとこ」とは
丹正 和臣(ぬか つくるとこ)
話しをしたり、ご飯を食べたり、創作意欲がわくときは絵を描いてもいいし、家族へ手紙を書いてもいい。楽器もそこそこあるので音楽もできるし、粘土を触ったり、そこにいる仲間と新しい遊びを考えるのもいい。または、ひがな1日ぼーっと寝て過ごすのも素敵だ。

「ぬか つくるとこ」は、岡山県早島町にある生活介護事業所だ。2013年12月に開所して2年半ほどが経った。
「生活介護事業所」とは、比較的重度の障がいをもっているとされる人が日中(9:00〜15:30)通う場所のことだ。全国各地にあり、この原稿を読んでくれているあなたの家の近くにもあるかもしれない。「ぬか つくるとこ」の特徴を一言でいうと、「やりたいことを無理せずできる場所」、または「そんな雰囲気があるところ」ということだと思う。「ぬか つくるとこ」に通う人たちは年齢も特徴もさまざま。現在は18歳〜65歳までの人が1日に20名ほど集まる。その中には自閉症と呼ばれる人がいたり、統合失調症といわれる人がいたり、ダウン症や元アル中の人がいたり、週に1日来る人もいれば、毎日来る人もいる。陽気な人もいれば、元気のない人もいる。当たり前だが、「ぬか つくるとこ」にいる人たちそれぞれの「やりたいこと/やりたくないこと」はそれぞれみんな違うのだ。そのさまざまな「違い」が築100年以上の比較的大きくない蔵のなかでひしめきあっている。
金色のタイツを来たスタッフが働いている…(運が良ければ会えるかもしれない)
日がな一日横になって過ごすのもイイかんじ
ソファーでのんびり
「ぬか つくるとこ」の名前の由来である「ぬか」は、漬け物などを漬けて発酵させる「ぬか床」からつけた。「ぬか」は、 穀物を磨いて白くする際に出る果皮、種皮、胚芽のことで、お米の場合、白米を得るために捨てられる「不要な部分」が「ぬか」にあたる。けれど、油分が多く栄養化が高いため、古くから日本人の生活の中で重宝されてきた。ぬか床で漬物をつけはじめると、毎日ぬか床を「混ぜる」という作業が生まれる。空気を入れ、手の常在菌で発酵させなければおいしい漬物は作れない。そのため、手をかけ愛情を注ぐが、仕上がる漬物の味はその都度の気温や菌の状態など、自然なものに「委ねてみないとわからない」のだ。

人の手をかけながら自然の力で発酵し、不要だと思われていたけれど実はとても有益な「ぬか」。この「ぬか」の有り様が福祉や障がい、または今の社会を新しい視点で見るきっかけになるのではないかと思い、「ぬか つくるとこ」という名前をつけた。「つくるとこ」には、「ものづくりができる場所、人や社会との関係をつくる場所」という思いを込めている。非常に紛らわしいが、断じて「ぬか」を「つくっているとこ」ではない。また、個々の「違い」を「ぬか床」でふつふつと「発酵」し、美味しく、または予想だにしない味の漬物がつけられるような、芳醇な「ぬか床/場所」を目指したいと思っている。
スタッフとぬかびとの愛のカタチ?
散歩やドライブなどの外出にもよくでかけている
チェック柄の服を来た人が多い部屋…(たまたまです)
絵を描いたり描かなかったり
チンドン屋を目指して特訓中
ここでは、よく言葉遊びをする。例えば、利用者さんのことを「ぬかびとさん」と呼んだり、スタッフが参加する会議のことを「ぬかばなし」、利用者さんどうしの会議を「ぬかるみ討論会」と名付けている。来客が楽しさのあまりなかなか帰れなくなることを「ぬかるみにはまる」と言っていたりしていて、「ぬか」という平仮名2文字のシンプルな響きが、新しい造語の誕生を誘ってくるかのようで楽しい。なかでも「ぬかびとさん」は個性豊かな方が多く、「ぬか つくるとこ」での日常は笑いと涙と感嘆の連続なのだ。

ここで一人、紹介したい素敵な「ぬかびとさん(利用者さん)」がいる。渡辺晴美さん(以下/はるみさん)は「ぬか つくるとこ」の近く、同じ町内にご両親と住んでいて、年齢は40歳ほど。「ぬか つくるとこ」には、週に2、3回来ている。
はるみさんとのコミュニケーションは唐突に始まる。特に初対面の方との出会いはお互いにとって意外な展開を生む場合が多い。はるみさんは初対面の相手に対しても、10年来の知人のように振る舞い、相手の顔を見ると、ぱたぱたと近寄ってきて名前も聞かずに、自分の名前も明かさずに(つまり自己紹介なしに)話を進めていく。
例えば、「山本さんよう来たなー(相手の方は山本さんという名前ではない)」「この前病院で会うたがなー(病院で会っていない)」「先生になんか言われたん?(先生…!?)」「あの人ひでーことするんでー(ひどいこと????)」などなど。会話が突如として始まり、こちらの戸惑いや「?」マークは無視されていく。全ては突然始まった演劇なのだ。「はるみ劇場」。その劇場に立ったまま役者を演じるか、または舞台を降りて観客となるかは自由に選ぶことができる。
はるみさんと一緒に外出すると楽しい。お店では店員さんに1000円の商品を100円にしてもらおうと迫ったり、道端では外国の方にばりばりの日本語で話しかけ、ローカルな話題でなんとなく通じ合ってみたり。工事現場で働かれているであろう出で立ちの少し怖そうなお兄さん5人組に話しかけ、笑顔で話したこともあった。はるみさんの演劇的で突発的なコミュニケーションは、身近にいる私たちの予想をはるかに超えて、いろんな人に通じ合っていく。そして、はるみさんの関わりと比べ、私たちが当たり前に行っている挨拶や建前、モラルのようなものが出会いの場においていかに儀礼的なものなのかを考えさせられる。
ある日の朝、自宅ではるみさんが倒れた。「救急車ではこばれたんじゃ」と、お母さんが慌てた様子で教えてくれた。
近くの大学病院で診てももらったところ、 幸い命に別状はないということがわかり、肩をなでおろした。しかし、しばし入院が必要なはるみさんのため「ぬか つくるとこ」のみんなで、「自分の写真を見ることが好きなはるみさんに、はるみさんのポスターを作ってお見舞いに行こう」と、ポスターを制作。そのポスターには「HARUMICATION save the world/渡辺晴美さんのコミュニケーションは世界を救う」と書かれている。
私たちは普段からはるみさんのコミュニケーションを、「はるみさん」と「コミュニケーション」を足して「ハルミケーション」と呼んでいて、「ハルミケーションは、実は世界を救う手がかりになるんじゃないのか?」、または「あまりに合理的で明白なこの世界を救ってくれるのではないか?」と、半ば大げさ&ダイナミックに捉え、冗談半分、本気半分で「ハルミケーション」という言葉を使っている。 はるみさんは1カ月ほどで退院をして、今は元気に過ごされている。

実際に渡辺晴美さんに出会い「ハルミケーション」を体感してもらえたら話がはやい。「ぬか つくるとこ」には他にも面白い人たちがたくさんいる。やっぱり「人っておもしろいなぁ」と思う現場が毎日そこにある。この「BRIGE STORY」という場所をお借りして、次回からも「ぬかびと」や「ぬか つくるとこ」から出てきた「ぬかのかたち」をご紹介できたら嬉しく思う。
また、この記事を読んで実際に「ぬか つくるとこ」に足を運んでいただけたら、尚のこと嬉しい。
われらが渡辺晴美さん!
渡辺晴美さんの入院中に「お見舞い」として制作したポスター

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