港千尋
Chihiro Minato
レイヤー / 越境 / 地図
写真の世界にレイヤーという言葉が入ってきたのはいつのことだろう。全体をレイヤーに分解して、考えてみる。いま見えているのは、複雑な操作の過程とその出力に過ぎないとすれば、世界の見方も変わってくる。20世紀の初めに世界が複数の層で出来ているという考えが現れたが、それを別の角度から眺めてみたい。越境は水平方向だけでなく、垂直方向にも行われる。それは感覚が描く地図になるだろう。
02 瞬間建築

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いま東京の見どころのひとつは、神宮外苑である。国立競技場の跡地だが、工事用のフェンスに囲まれた広大な敷地には、誰もが驚くだろう。
解体前にはとても見えなかった、遠くの景色。驚くほど静かに運びだされている瓦礫。東京のど真ん中にできた穴のようなものだが、外苑を通るたびに、ここがそのまま放置され、そのうち草地になったら、と夢想する。
そこは雨が降れば水溜りができ、夏になれば雑草が茂るような、本当のフィールドである。雪が降ったら、みんなで雪だるまを作る。余計なものは何も置かない。雪が溶けて春になれば、ツクシが生える。何も作らないように見えるが、ヴォイドが作られる。
都市を「下」から支えるインフラストラクチャーに対して、「間」に生まれる構造、言ってみればイントラストラクチャーを考えたい。特定の形をもたず、むしろ「間」を作ることで、都市にちょっとした変化をもたらす。瞬間芸のようなものである。
香港の雨傘運動で、そんな瞬間芸を見た。大都市のど真ん中が一時的に生活空間になると、いろんな工夫が生まれる。自動車専用道路の中央には、高さ1メートルほどの分離塀がある。よじ登るほどではないが、跨ぐには高すぎるこの塀に、3段ほどの階段が作られていて、お年寄りや小さな子どもはずいぶん助かっていた。オキュパイ特有のDIYだが、手すり付きでしっかりしている。瞬間建築の真骨頂。
いまは雪が溶けてしまったように、何の跡形もなく消えてしまったが、それを生み出す知恵まで消えたわけではない。都市の知性は、むしろこうしたイントラストラクチャーに現れるような気がする。

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