ぬかつくるとこ
nucatsukurutoko
ぬか日和
「ぬか つくるとこ」は、岡山県にある福祉事業所です。 毎日様々なひとが行き交い、生活のなかでおこるささいなデキゴトに目をむけ、 それに一喜一憂し、 成功も失敗もできる場所。「ぬか つくるとこ」という一風変わった名前の由来は、漬け物などを 漬けて発酵させる「ぬか床」から来ています。個々の魅力が「ぬか漬」のように時間をかけてゆっくりと発酵し、社会へと広がって行くことを願って付けました。そんな「ぬかつくるとこ」の日常を、少しずつ紹介していきたいと思います。
05 上木戸工作室
上木戸さんは仮面ライダー好き。好きゆえにライダーグッズを改造したり自作したりしている。
ホームセンターや100円均一で購入した板状のマグネットや、少し厚手のゴム板を素材にしてベルトをつくる。ベルトにはバックルがついていて自作のものもあれば、既成のおもちゃを改造したものもある。ベルト部分が基本マグネットでできているため、完成するとかなりの重さだ。超合金という素材でできた変身ロボットのおもちゃがあったが、手に乗せた重量感や、金属の冷やっとした質感が男心をくすぐっていたのを思い出す。ベルトはしっかりとペイントされている。細部を精密にマスキングしたのち(マスキングはお母さんとの共同作業)ラッカースプレーで塗装するのだ。
「どこで塗装しているの?」と尋ねると、「3階の自分の部屋」と答えるので、「自宅室内でスプレーしてるの?体への影響は?換気は大丈夫か!?」とお節介な気持ちになるが、そこは同居されているご両親に委ねようと口をつむぐ。
また、変身ポーズの練習も怠らない。最近の仮面ライダーは1つの話の中に何人ものライダー達が登場し、それぞれ変身ポーズが違うことが多い。上木戸さんは何種類もある変身ポーズを研究してはぬかの洗面台にある鏡の前で練習している。
普段つくっているベルトを身につけ変身ポーズを決める上木戸さん
自作のベルトを身に付け、気合いを入れて変身ポーズを決める。
「ヘンシン!!!」
テレビや映画で見るような特殊効果とともに仮面ライダーに変身する上木戸さんが見えるかのようだった。
変身ベルトキット
スタッフが「ベルト付けさせて~」と気楽にお願いすると、「いいよ!」と二つ返事でオーケーしてくれ細部の説明や変身ポーズをレクチャーしてくれる。ベルトを身につけ、教えてもらった変身ポーズをする。不思議と気持ちが盛り上がってくる。「もしここで自分が変身したら?」とか思ったりする。子供のときに「もしかしたらアニメのヒーローのように空を飛べるかもしれない?」と思ったことがある。もちろんそれは想像や妄想の世界であるのだが、想像力と同時に湧いてくるワクワクした感覚は大人になった今の自分が味わっても悪くない。むしろ、そういった想像や妄想の力を再び取り戻していきたいとも思う。
こうしたワクワクした気持ちをいろんな人達と味わえないものか?また、 いろんな人が作る変身ベルトが見てみたいと思い「変身ベルトを作るワークショップ=上木戸工作室」ができあがる。
ワークショップ風景
ベルトをいちからつくるワークショップは工作好きな人なら取り組めるかもしれないが、普段もの作りをしていない人にはハードルが高い。なのでベルトの基本的な型をつくり、その型にペイントしたり物を貼り付けたりして参加者オリジナルのベルトづくりができるというワークショッププランを考えた。梱包資材を扱う会社にお願いし、要望を伝え、上木戸さんとも相談をして何度も設計をやり直し「変身ベルトキット」が出来上がる。「変身ベルトキット」は特殊なダンボールでできていて折り線に沿って組み立てるとバックルとベルト部が一体化した変身ベルトが出来上がる。このベルトキットを使用していろんなところでワークショップを行った。
「変身」というキーワードは子供はもちろん大人も惹きつけられる。「今の自分ではない、なにものかになる」というのは現実を飛び越えたり、組み替えたりできる想像力が必要だ。ヒーローに憧れる男の子、「お花屋さん」になりたいという女の子もいる。ただ無心に絵を描き、材料をベルトにくっつけ、出来上がったものを装着してなりたいものを考える人もいる。変身ベルトの作り方はそれぞれ自由だ。大人でも子供のように自由な発想でなりたいものを考えれるだろうか?大人は大人なりに「お金持ちになりたい」とか素直に思ってもいいと思う。そのために大人らしく今の自分と数年後の自分を想像したりするのもありだ、お金持ちのベルトは成金らしく金色に鈍く光るのだろうか?すべては作者の夢の中。変身ベルトという道具を自分で作ることによって、変身したい願望が少しだけ具体的な形で現れることが面白い。
3人で!ヘンシン!(一人の子はピースでヘンシン!)
「上木戸工作室」は開店すると子供達でいっぱいになる(残念ながら大人の参加者が少ない…)。当初、上木戸さんは「子供は苦手」と言っていた。しかし、参加者の子供達がベルト制作だけにとどまらず武器を作り出したり自由な創作を始めると、工作が得意な上木戸さんのところに多数の制作依頼がやってくる。「刀作ってー」「ハンマーがほしい」などなど…。そういった子供達の要望に素早く応えていく上木戸さん。頼りにされ、ダンボールなどで作ったアイテムを渡し、返ってくる子供達の笑顔にまんざらでもなく、一緒に変身ポーズをとったりしている。「子供は苦手」と言っていた上木戸さんだが、いつの間にか平気な顔して子供たちと一緒に遊んでいる。
大人もヘンシンしたい!
得意なことや好きなこと、または自分では苦手だと思っていても他者からみたら魅力的なところがにじみ出るようにして少しだけ人に触れる。すると思わぬことが起きて、自分の世界を少しだけ広げてくれる。黙々と一人でやっていることが多くの人と繋がるきっかけになったりもする。そんな出会いがこれからも上木戸工作室やぬかで起きて欲しいとしみじみ思う。
親子で渾身のポーズ!というか渾身の顔!
1回目の「BRIGE STORY」にも書かせてもらったが、「ぬか」には他にも面白い人たちがたくさんいる。「人っておもしろいなぁ」と思う現場が毎日そこにある。だからといって「ぬか」という現場が特殊というわけではない。また「福祉事業所」だから豊かな人間模様が際立って露出しているというわけでもない。何食わぬ顔ですごす身近な人それぞれに多様なストーリーが見え隠れしている気がする。自分の中にもあり、ぬかびと(ぬかの利用者)の中にもある。
そうして考える。普通とはなんなのか?とか、障害とはなんなのか?とかを。その問いは簡単に答えがでそうにないので、一人一人の好きなこと、どうしてもしてしまうクセのようなものを掘り起こし、それをとっかかりとして、境界のようなものを超えようとしたり、その境界をにじませたりするような遊びをしている。「BRIGE STORY」ではそういったストーリーを紹介させてもらうことができてとても嬉しかった。
最後に、この記事を読んでいただいた方々の中から一人でも多く「ぬか つくるとこ」に足を運んでいただけると尚のこと嬉しい。ふつふつと発酵するぬかどこでお待ちしています。
参加者の子供達に頼まれて作った武器を渡す上木戸さん
プロフィール
上木戸 恒太(うえきど こうた)
上木戸工作室室長。工作のスペシャリスト。わくわくした気持ちを直感的にカタチにしていく。時にはオリジナルのストーリー(アニメの脚本のようなもの)を考え、そのストーリーに登場するアイテムを立体化している。2次元から3次元まで、多層なカタチでものづくりにとりくんでいる。

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