町田恵美
Megumi Machida
領域 / 共同体 / 意識
私が生まれ育った沖縄は、四方を海で囲まれているがゆえの閉じられた概念と海の彼方に向かう開かれた意識との両面を持っているといえる。
周縁に位置することでもたらされた数々の出来事に対し、受容と抵抗を繰り返すなかで育まれた芸術表現には、どういった土地固有の共同体の思想が影響し、関係しているのだろうか。領域の横断と循環により、新たな価値観をもたらす文化形成の過程をコレクティヴの動きやアーティストの活動を通して多様化する現代社会との接続点として考えたい。
周縁に位置することでもたらされた数々の出来事に対し、受容と抵抗を繰り返すなかで育まれた芸術表現には、どういった土地固有の共同体の思想が影響し、関係しているのだろうか。領域の横断と循環により、新たな価値観をもたらす文化形成の過程をコレクティヴの動きやアーティストの活動を通して多様化する現代社会との接続点として考えたい。
01 MAX PLAN 1970-1979
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画家・真喜志勉(まきし つとむ・TOM MAX)は生前、年に一度、ほぼ毎年展覧会を開催していた。
一昨年、沖縄県立博物館・美術館と沖縄県立芸術大学で開催された回顧展は、真喜志の仕事をまとめて見る機会であった。作品変遷の特徴は、大きく年代ごとに分けて考えられるといえるだろう。
一昨年、沖縄県立博物館・美術館と沖縄県立芸術大学で開催された回顧展は、真喜志の仕事をまとめて見る機会であった。作品変遷の特徴は、大きく年代ごとに分けて考えられるといえるだろう。
MAX PLANと題した本展は連続展として、vol.1となる今回、70年代に焦点を充てる。これは真喜志の画業のスタートを位置付けている訳ではない。真喜志は多摩美術大学在学中から個展を行うなど、その当時から既に注目された存在であった。しかしながら、本土復帰とその直後(※1)に過ごしたアメリカでの生活という70年代の経験は真喜志の画業を決定づける時期であったといえる。沖縄でアメリカを描くこと、愛憎の想いが作品から見て取れる。確かな画力で、その拮抗する感覚のバランスを維持し続けた。
真喜志が渡米を経て培われた技法が、70年代の作品を支えている。特に70年代後半の油彩画の習作として描かれたとされるドローイング群は、着色されていないモノクロームの画面にこそ、細部に至るまで湛えられた緊張感がある。繰り返されるモチーフの選択、雑誌や写真といった別の媒体からの転写、それらを画面上に配置する際のルールが存在する。全てのイメージを等価のものとすることで判断を鑑賞者に委ねる真喜志の視線は、私たちにさまざまな問いを投げかける。
70年代の作品がいまなお色褪せないことが、写し鏡として現代にも続く問題にも及んでいることは言うまでもない。転写の技法として、オリジナルに近づけることは如何様にも可能であるが、真喜志はプリントにしても描写にしてもはっきりとさせることをせず、ぼかしを入れている。それは直視できない現実を前にした真喜志の心情ともいえないだろうか。
※1 これまで真喜志の渡米は復帰前とされていたが、パスポートから復帰直後であることが調査にて判明した。ここに記して訂正します。
真喜志が渡米を経て培われた技法が、70年代の作品を支えている。特に70年代後半の油彩画の習作として描かれたとされるドローイング群は、着色されていないモノクロームの画面にこそ、細部に至るまで湛えられた緊張感がある。繰り返されるモチーフの選択、雑誌や写真といった別の媒体からの転写、それらを画面上に配置する際のルールが存在する。全てのイメージを等価のものとすることで判断を鑑賞者に委ねる真喜志の視線は、私たちにさまざまな問いを投げかける。
70年代の作品がいまなお色褪せないことが、写し鏡として現代にも続く問題にも及んでいることは言うまでもない。転写の技法として、オリジナルに近づけることは如何様にも可能であるが、真喜志はプリントにしても描写にしてもはっきりとさせることをせず、ぼかしを入れている。それは直視できない現実を前にした真喜志の心情ともいえないだろうか。
※1 これまで真喜志の渡米は復帰前とされていたが、パスポートから復帰直後であることが調査にて判明した。ここに記して訂正します。
帰国後、75年の琉球新報ホールで発表された三つのオブジェクトを描いた作品がある。下絵、着色、そして完成を打ち消すような痕跡を残した三体が鎮座する。描く対象物は、絵の具のチューブやハンマー、時計といった身近にあるものを選択している。その中に、IDタグも含まれている。軍隊における兵士の認識票として使用され、犬用の鑑識と比較されスラング用語として「ドッグタグ」と呼ばれる。シルバーの合金に名前をはじめとする個人情報がエンボス加工で刻印されており、沖縄ではミリタリーショップなどでも容易に手に入る。
首からドックタグを下げ、沖縄にやって来る兵士たち。《LEFT ALONE》は、ヘルメットを片手に持つ兵士と思わしき、ひとりの男の後ろ姿だ。後ろ姿であるがゆえ想像の域を超えないが、彼の首にもドックタグが光っているに違いない。同じ年に描かれた別の作品同様の球体のシルエットとハンガー、一見すると無関係に思えるものに込められたメッセージを私たちは見過ごしてはならない。彼らは消費されていくだけの存在なのだろうか。彼らだけではなく、彼らが足を踏み入れた沖縄はどうだろうか。真喜志が76年に参加した「‘76展」での口を塞がれたマネキンの作品然り、声を奪われ何も言えない状況は現在よりその色を濃くしている気がしてならない。この閉塞した現状をするりと変容させる思考回路を構築する手掛かりとしてTOM MAXの仕事を参照されたい。
首からドックタグを下げ、沖縄にやって来る兵士たち。《LEFT ALONE》は、ヘルメットを片手に持つ兵士と思わしき、ひとりの男の後ろ姿だ。後ろ姿であるがゆえ想像の域を超えないが、彼の首にもドックタグが光っているに違いない。同じ年に描かれた別の作品同様の球体のシルエットとハンガー、一見すると無関係に思えるものに込められたメッセージを私たちは見過ごしてはならない。彼らは消費されていくだけの存在なのだろうか。彼らだけではなく、彼らが足を踏み入れた沖縄はどうだろうか。真喜志が76年に参加した「‘76展」での口を塞がれたマネキンの作品然り、声を奪われ何も言えない状況は現在よりその色を濃くしている気がしてならない。この閉塞した現状をするりと変容させる思考回路を構築する手掛かりとしてTOM MAXの仕事を参照されたい。
70年代後半の作品から背景にカラーグラデーションのラインが現れはじめ、そのスタイルは80年代に確立する。また、油彩画と並行してシルクスクリーンの作品も手掛けていく。こうした技法の変化に真喜志の意識の変容を汲み取り、その意図から読み取れる幾つもの解釈を今後の課題としたい。
私は70年代という時代を直接体験していない。しかし、真喜志の作品から学べることがある。
私は70年代という時代を直接体験していない。しかし、真喜志の作品から学べることがある。
プロフィール
真喜志勉 MAKISHI Tsutomu(1941~2015)
沖縄県那覇市生まれ。多摩美術大学洋画科卒業。本土復帰直前の1971年から一年間ニューヨークに滞在。帰郷後、沖縄を拠点に、ほぼ毎年個展を開催。絵画教室「ぺんとはうす」を主宰し、多くの教え子を輩出する。TOM MAXの愛称で知られ、沖縄の狭まをみつめ、生涯描き続けた画家である。
インフォメーション
TOM MAX Exhibition vol.1 MAX PLAN 1970-1979
RENEMIA(那覇市牧志2-7-15)
2018年9月24日(月振休)~30日(日)13時~18時/入場無料 *会期中無休
ギャラリーラファイエット(沖縄市中央4-1-3 2F)
2018年9月29日(土)~10月8日(祝月)11時~18時/入場無料 *CLOSE 10/1(月)
真喜志勉 MAKISHI Tsutomu(1941~2015)
沖縄県那覇市生まれ。多摩美術大学洋画科卒業。本土復帰直前の1971年から一年間ニューヨークに滞在。帰郷後、沖縄を拠点に、ほぼ毎年個展を開催。絵画教室「ぺんとはうす」を主宰し、多くの教え子を輩出する。TOM MAXの愛称で知られ、沖縄の狭まをみつめ、生涯描き続けた画家である。
インフォメーション
TOM MAX Exhibition vol.1 MAX PLAN 1970-1979
RENEMIA(那覇市牧志2-7-15)
2018年9月24日(月振休)~30日(日)13時~18時/入場無料 *会期中無休
ギャラリーラファイエット(沖縄市中央4-1-3 2F)
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