ぬかつくるとこ
nucatsukurutoko
ぬかつくるとこの不思議
「ぬか つくるとこ」は、岡山県にある福祉事業所です。 毎日様々なひとが行き交い、生活のなかでおこるささいなデキゴトに目をむけ、 それに一喜一憂し、 成功も失敗もできる場所。「ぬか つくるとこ」という一風変わった名前の由来は、漬け物などを 漬けて発酵させる「ぬか床」から来ています。個々の魅力が「ぬか漬」のように時間をかけてゆっくりと発酵し、社会へと広がって行くことを願って付けました。そんな「ぬかつくるとこ」の日常を、少しずつ紹介していきたいと思います。
02 とだのま

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「ぬか つくるとこ」からでてくる様々な「かたち」を「ぬかのかたち」と呼んでいる。たとえば、「ぬかびとさん(利用者さん)」の作品展をひらいたり、グッズができたり、ワークショップになったり、1日限定のお店をひらいたり…。日々の「おもしろいこと」や「特徴的なできごと」が抽出されるようにして何かしらの「かたち」になることがある。今回ご紹介する「とだのま」もそんな「ぬかのかたち」の一つだ。

戸田雅夫さん(以下/戸田さん)は「ぬか つくるとこ」へ週に2日来ている。年齢は58歳。律儀でまじめだが、とてもひょうきんでお茶目な人だ。いつも笑顔で優しくて、気の利いた一言で笑わせてくれる。脳性麻痺(受精から生後4週までの間に、脳の損傷によって引き起こされる運動機能の障がいをさす症候群)の影響で言葉が発しづらかったり、歩行にすこしふらつきがあったりする。月に30冊以上の本を読んでいて、ぬかの中でもいちばんの読書家。かばんの中には図書館で借りた本数冊と新聞、ノートとペンがいつも入っていてずっしり重い(軽いときもある)。

ぬかに着くと戸田さんはゆっくりと新聞を読む。片手に朝のウェルカムドリンクを持ってちびちび飲みながら、1面から順に読んでいく。気になった記事を見つけると、ボールペンなどを使いおもむろに筆を入れる。既存の文章に一字足したり引いたりしながら、紙面の言葉を遊んでいくのだ。たとえば…、「こどもエコしんぶん(新聞)」という折り込み特集記事の文字を少し変えて「こどもエゴちんぶん(珍聞)」としていたり。地元のアミューズメントパークの広告で「楽」という文字が大きくあしらわれたデザインを利用して、「くさかんむり/部首」を乗せ「薬」という文字にしてみたり。それは、昔だれもがやったことがあるであろう、教科書にのっている偉人の顔に落書きをするような、気楽でなにげない遊びなのかもしれないが、 既成のモノに少し手を加えることで違った見え方が立ち現れてくることが不思議でおもしろく戸田さんのユーモアセンスが感じられる。 また、時事的な出来事を俳句や文章にしたため書き留めたノートや、戸田さん自作のホームページ「とっぽん君のおうち」も 戸田さんならではの視点が効いている。よければホームページも見てみてほしい。
たい焼き屋の前にて
戸田さんのノート
「ぬか つくるとこ」は古い蔵を改修した建物で、もともとあった家具や民具の中から「みくじ筒(みくじ棒が入っている六角中の入れ物)」が出てきた。何故みくじ筒がそこにあったかは不明だが、年季が入り、味のあるそのみくじ筒の使い道は「とだのま」というおみくじ屋さんで使用されることになる。戸田さんの言葉をおみくじにして販売しようという試みはこのみくじ筒が見つかったことがきっかけだった。
店名は「とだのま」、おみくじの名前は「とだみくじ」、1枚なんと200円。
お客さんは六角柱のいわゆる「みくじ筒」をかちゃかちゃと振る。出てきた木札に書かれた番号を店主の戸田さんに渡すと棚に整然と並べられたおみくじの中から運命のような一枚を(ランダムに)選び抜き、 神妙なおももちで手渡してくれる。とだみくじには通常良く目にする「吉」や「凶」など、その時々の運勢を占う言葉は載っておらず、代わりに、戸田さんが紡いだなにげない一言がそっと直筆で綴られている。些細だけどすこしおかしい。優しくて時に鋭い戸田さんの言葉。おみくじを受け取った人の中には2度引きにくる人もいた。
野外型イベント(UNOICHI)にて初出店
おみくじの内容とこの方の見た目がマッチしているように感じる…
笑顔がすてき
「おみくじ」は多くの人にとって身近ではないが、神社などで年に1度は引く機会があったりと親しみのあるもので、「くじ」というどこか神頼みなところがある。「神頼み」という言葉が表しているようにとだみくじを引く際、幾人かの人は何故だか手を合わせておつげを待っている。くじ棒を引き、おみくじを受け取るまでのつかの間に、手を合わせたくなるのが不思議だ。お客さんの立場からすると、見知らぬ人が 書いた言葉を200円を払って買い、 手紙でもメールでもない意外な形で渡される。それは間違いなくおみくじを引いた私宛の言葉であることに少し戸惑いを感じながら、または、少しわくわくしながらおみくじを受け取る。「見知らぬ人からの言葉を受け取る」その体験が新鮮で実に不可思議なのだ。 「とだのま」は野外型のマルシェや、様々なイベントに出店し、戸田さん本人と、戸田さんの紡ぐとだみくじの妙に魅せられ、当初準備した300枚のとだみくじは完売している。「とだみくじ」が紡がれるまでの間はしばしのおやすみをしているが、また「とだのま」に出会える日は近いかもしれない。
プロフィール
戸田雅夫(とだまさお)
自分が感じた切実な問題、これはちょっと違うぞと言う違和感、自分が感動したことなどをボンヤリ考えるのが好き。週に2日「生活介護事業所 ぬか つくるとこ」へ通っている。ホームページ「とっぽん君のおうち」

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