ぬかつくるとこ
ぬかつくるとこ
nucatsukurutoko
ぬか日和
「ぬか つくるとこ」は、岡山県にある福祉事業所です。 毎日様々なひとが行き交い、生活のなかでおこるささいなデキゴトに目をむけ、 それに一喜一憂し、 成功も失敗もできる場所。「ぬか つくるとこ」という一風変わった名前の由来は、漬け物などを 漬けて発酵させる「ぬか床」から来ています。個々の魅力が「ぬか漬」のように時間をかけてゆっくりと発酵し、社会へと広がって行くことを願って付けました。そんな「ぬかつくるとこ」の日常を、少しずつ紹介していきたいと思います。
上木戸さんは仮面ライダー好き。好きゆえにライダーグッズを改造したり自作したりしている。
ホームセンターや100円均一で購入した板状のマグネットや、少し厚手のゴム板を素材にしてベルトをつくる。ベルトにはバックルがついていて自作のものもあれば、既成のおもちゃを改造したものもある。ベルト部分が基本マグネットでできているため、完成するとかなりの重さだ。超合金という素材でできた変身ロボットのおもちゃがあったが、手に乗せた重量感や、金属の冷やっとした質感が男心をくすぐっていたのを思い出す。ベルトはしっかりとペイントされている。細部を精密にマスキングしたのち(マスキングはお母さんとの共同作業)ラッカースプレーで塗装するのだ。
「どこで塗装しているの?」と尋ねると、「3階の自分の部屋」と答えるので、「自宅室内でスプレーしてるの?体への影響は?換気は大丈夫か!?」とお節介な気持ちになるが、そこは同居されているご両親に委ねようと口をつむぐ。
また、変身ポーズの練習も怠らない。最近の仮面ライダーは1つの話の中に何人ものライダー達が登場し、それぞれ変身ポーズが違うことが多い。上木戸さんは何種類もある変身ポーズを研究してはぬかの洗面台にある鏡の前で練習している。
普段つくっているベルトを身につけ変身ポーズを決める上木戸さん
自作のベルトを身に付け、気合いを入れて変身ポーズを決める。
「ヘンシン!!!」
テレビや映画で見るような特殊効果とともに仮面ライダーに変身する上木戸さんが見えるかのようだった。
変身ベルトキット
スタッフが「ベルト付けさせて~」と気楽にお願いすると、「いいよ!」と二つ返事でオーケーしてくれ細部の説明や変身ポーズをレクチャーしてくれる。ベルトを身につけ、教えてもらった変身ポーズをする。不思議と気持ちが盛り上がってくる。「もしここで自分が変身したら?」とか思ったりする。子供のときに「もしかしたらアニメのヒーローのように空を飛べるかもしれない?」と思ったことがある。もちろんそれは想像や妄想の世界であるのだが、想像力と同時に湧いてくるワクワクした感覚は大人になった今の自分が味わっても悪くない。むしろ、そういった想像や妄想の力を再び取り戻していきたいとも思う。
こうしたワクワクした気持ちをいろんな人達と味わえないものか?また、 いろんな人が作る変身ベルトが見てみたいと思い「変身ベルトを作るワークショップ=上木戸工作室」ができあがる。
ワークショップ風景
ベルトをいちからつくるワークショップは工作好きな人なら取り組めるかもしれないが、普段もの作りをしていない人にはハードルが高い。なのでベルトの基本的な型をつくり、その型にペイントしたり物を貼り付けたりして参加者オリジナルのベルトづくりができるというワークショッププランを考えた。梱包資材を扱う会社にお願いし、要望を伝え、上木戸さんとも相談をして何度も設計をやり直し「変身ベルトキット」が出来上がる。「変身ベルトキット」は特殊なダンボールでできていて折り線に沿って組み立てるとバックルとベルト部が一体化した変身ベルトが出来上がる。このベルトキットを使用していろんなところでワークショップを行った。
「変身」というキーワードは子供はもちろん大人も惹きつけられる。「今の自分ではない、なにものかになる」というのは現実を飛び越えたり、組み替えたりできる想像力が必要だ。ヒーローに憧れる男の子、「お花屋さん」になりたいという女の子もいる。ただ無心に絵を描き、材料をベルトにくっつけ、出来上がったものを装着してなりたいものを考える人もいる。変身ベルトの作り方はそれぞれ自由だ。大人でも子供のように自由な発想でなりたいものを考えれるだろうか?大人は大人なりに「お金持ちになりたい」とか素直に思ってもいいと思う。そのために大人らしく今の自分と数年後の自分を想像したりするのもありだ、お金持ちのベルトは成金らしく金色に鈍く光るのだろうか?すべては作者の夢の中。変身ベルトという道具を自分で作ることによって、変身したい願望が少しだけ具体的な形で現れることが面白い。
3人で!ヘンシン!(一人の子はピースでヘンシン!)
「上木戸工作室」は開店すると子供達でいっぱいになる(残念ながら大人の参加者が少ない…)。当初、上木戸さんは「子供は苦手」と言っていた。しかし、参加者の子供達がベルト制作だけにとどまらず武器を作り出したり自由な創作を始めると、工作が得意な上木戸さんのところに多数の制作依頼がやってくる。「刀作ってー」「ハンマーがほしい」などなど…。そういった子供達の要望に素早く応えていく上木戸さん。頼りにされ、ダンボールなどで作ったアイテムを渡し、返ってくる子供達の笑顔にまんざらでもなく、一緒に変身ポーズをとったりしている。「子供は苦手」と言っていた上木戸さんだが、いつの間にか平気な顔して子供たちと一緒に遊んでいる。
大人もヘンシンしたい!
得意なことや好きなこと、または自分では苦手だと思っていても他者からみたら魅力的なところがにじみ出るようにして少しだけ人に触れる。すると思わぬことが起きて、自分の世界を少しだけ広げてくれる。黙々と一人でやっていることが多くの人と繋がるきっかけになったりもする。そんな出会いがこれからも上木戸工作室やぬかで起きて欲しいとしみじみ思う。
親子で渾身のポーズ!というか渾身の顔!
1回目の「BRIGE STORY」にも書かせてもらったが、「ぬか」には他にも面白い人たちがたくさんいる。「人っておもしろいなぁ」と思う現場が毎日そこにある。だからといって「ぬか」という現場が特殊というわけではない。また「福祉事業所」だから豊かな人間模様が際立って露出しているというわけでもない。何食わぬ顔ですごす身近な人それぞれに多様なストーリーが見え隠れしている気がする。自分の中にもあり、ぬかびと(ぬかの利用者)の中にもある。
そうして考える。普通とはなんなのか?とか、障害とはなんなのか?とかを。その問いは簡単に答えがでそうにないので、一人一人の好きなこと、どうしてもしてしまうクセのようなものを掘り起こし、それをとっかかりとして、境界のようなものを超えようとしたり、その境界をにじませたりするような遊びをしている。「BRIGE STORY」ではそういったストーリーを紹介させてもらうことができてとても嬉しかった。
最後に、この記事を読んでいただいた方々の中から一人でも多く「ぬか つくるとこ」に足を運んでいただけると尚のこと嬉しい。ふつふつと発酵するぬかどこでお待ちしています。
参加者の子供達に頼まれて作った武器を渡す上木戸さん
プロフィール
上木戸 恒太(うえきど こうた)
上木戸工作室室長。工作のスペシャリスト。わくわくした気持ちを直感的にカタチにしていく。時にはオリジナルのストーリー(アニメの脚本のようなもの)を考え、そのストーリーに登場するアイテムを立体化している。2次元から3次元まで、多層なカタチでものづくりにとりくんでいる。
「ぬかつくるとこ」ではアイデアラッシュという会議が不定期に行われている。アイデアラッシュをする際は、出された案は否定しない、お金がかかるかからないは問わないを柱に意見が交わされていく。毎回1時間30分で終えようとするが、結局会議は3時間近くに及んでしまう。というのもいつも色々な方向に話が枝分かれしてゆき、なかなか終われないのだ。あえてそれをまとめようとする人もいないのである。だからこそ、そこから多くの言葉が生まれた。「コイケノオイケ」もそのひとつだ。
新聞ちぎり中の小池さん
小池佑弥さんには知的障害がある。ぬかには土曜日の数回通って来られているのだが、小池さんが生業としているのが「イタズラ」と呼ばれるものである。ひょっとしたら小池さんにとっては当たり前の行為で、イタズラとは捉えていないかもしれない。しかし、その行為をしたあとの小池さんのとびきりの笑顔と甲高い笑い声を聞くと私たちは「イタズラ」を成し遂げた後の達成感だと捉えてしまう。そしていつも、してやられた感を味わってしまうのだ。やってはダメと言われるとやりたくなる。困った顔をされると楽しくてしかたがない。やりたいことをやり遂げると嬉しくてたまらない。おそらく「やっていいよ」と言われたらしなくなるかもしれない。小池さんのアドレナリンを放出するための「イタズラ」である。

見えるスイッチは押してみる。
水が出そうな蛇口はひねってみる。
事務所の前にお供え物を置いてみる。
事務所の入り口の隙間からいろいろなものを入れてみる。

どれも小池さんの生活にとって大切な役割の一つである。そんな中でも一番はまっているのが「新聞ちぎり」。ありったけの新聞を置いても、あっという間に全てをちぎり、部屋中、新聞だらけになる。小池さんにとって新聞は、ただちぎるためだけの道具ではない。ちぎりながら気になる言葉を確かめ、そして新聞の破れる音も楽しみながら、どの瞬間も感覚的に新聞を愛でていく。
新聞をちぎり散らかす行為は一般的に良しとされる行為ではない。しかし、「ぬか」ではゆるされ、それに小池さんも応える。ちぎり終わったあとにゴミ袋を渡すと、それを全て入れてくれる。それが小池さんの重要な役割となっている。いつしかその袋を捨てずに貯めておくようになった。
お池の主
その眼差しはプロフェッショナル
「コイケノオイケ」とは「小池さん」の「お池」、「お池」とは「小池さんがちぎった新聞でうめつくされた部屋のこと」。小池さんは「新聞ちぎりのプロフェッショナル」。また「お池の主」としていつもそこにいる。

岡山市の内山下小学校という廃校になった校舎で様々なワークショップが行われる「マチノブンカサイ」というイベントに「コイケノオイケ」の主として参加した。小池さんがそれまでにちぎった新聞をすべて出してひとつの教室を埋め尽くし、新聞の中で遊んだり、ちぎったりと自由にできるスペースを作った。それまでにちぎり貯めた袋は50袋以上、瞬く間に教室が新聞だらけになった。子供から大人まで多くの人たちがこの非日常的な空間で大はしゃぎ。新聞の中に潜ったり、新聞を空中に投げてみたり、もちろん新聞をちぎったり、時には新聞でコスプレをし始める子供たちも出てくるほど。そんななかでも、トレードマークである新聞でできた大きな蝶ネクタイを身につけた小池さんは、まるでお池に命を吹き込むかのように淡々と新聞を愛でながら、ちぎり、投げ入れていく。その姿はまさに「お池の主」そのものだった。

ただちぎった新聞を入れているだけの空間、特に何かをしようという提案はしていない。なのに大量の新聞を目の前にすると、なぜかテンションがあがってしまう。やっていることは単純なことなのに、なんだか楽しくなってしまう。
お池の主の念なのか?
何なのか?
「コイケノオイケ」は摩訶不思議な空間となった。
お池で大はしゃぎの子共たち
コイケハット
シンブンチョウネクタイ
片付けまでワークショップ
プロフィール
小池佑弥  
イタズラをする。周囲の人が固まったり、慌てたり、時には笑ったりする表情が大好物。いわばちょっかいを出すことで成立するコミュニケーション。新聞をちぎる感触や音、また、淡々と記事を読みながらやぶっていく姿はまさに職人。無邪気で、時にはしたたかに世界を楽しむのが小池流。
しょうへいくんと顔を合わせると必ずハグをしてくる。
「おはよう、げんき?」
そして、耳元でそっとささやく。
「今日、来る?」
これが毎朝行なわれるお決まりの挨拶だ。しょうへいくんが「今日、来る?」と聞いてきたのは、ランチのお客さんが来るかどうかの確認。
「しょうへいくん、今日3名ランチのお客さんがいるよ。」
と言うと、満面の笑顔で、
「いいよ、オッケー。」
と言って準備にとりかかる。
いい笑顔のしょうへいくん
「ぬか つくるとこ」では20年以上飲食業で働いていたシェフがランチを作ってくれている。和食、洋食、中華、時にはアフリカン、ハワイアンまでバリエーション豊富なメニューとその美味しさに、ぬかびと、スタッフは胃袋を掴まれている。そのランチは一般の方にも提供しており前日までの予約が必要だが、800円(ドリンク付)、1000円(ドリンク+シェフの気まぐれスウィーツ付)の2種類がある。お客さんにはぬかびとさんと同じ場所でランチを食べてもらっている。通常、福祉事業所(特に生活介護事業所と呼ばれる場所)では一般の方が気軽に来るというイメージはない。そんな福祉的なイメージを払拭したいのと、ただ純粋にいろんな人と一緒に美味しい食事が食べたいという思いでランチの提供を始めた。しょうへいくんはランチ客の接客も担ってくれていて、配膳からドリンクのオーダーまでこなしてくれるマルチプレーヤーだ。
バラエティーに富んだシェフのランチ
しょうへいくんが「ぬか」に通い始めて2年以上が経つ。ひとが好き、特に女性が大好きな彼は、さまざまな人にプレゼントを渡し続けていた。そんな時に出会ったのがプラバンだ。(プラバンとはプラスティックの板に絵を描き、オーブントースターなどを使用して熱を加えて加工できるもので、1980年代から1990年代前半にかけて主に小学生の間で流行った遊び。)
そのプラバンでしょうへいくんは指輪やネックレスを作り、ぬかびと、スタッフ、ぬかに来るお客さんに向けて、プレゼントを作り始めた。プレゼントにはそっと手紙を添える。手紙にはストレートな言葉がしたためられている。

「デートしよう。」

更にしょうへいくんのお気に入りとなった女性には、目の前でひざまずき、プラバンの指輪とともにもっとストレートな言葉をプレゼントされるのだ。

「結婚してください。」

これをぬかでは「しょうへいくんのちょっとした下心」と呼んでいる。
しょうへいくんがいとも簡単にやっている事は、男にとってかなり気合いのいる事だ。

愛の告白を指輪を渡しながらするなんて…一生のうちに一度あるかないかではないかと思うが、しょうへいくんにとっては日常的だ。しかも嫌みなく、イヤらしさを感じないのが不思議。恐るべししょうへいくんの下心!とぬかスタッフの特に男達は思っている。(笑)
最近のしょうへいくんはプレゼントするだけではなく、プレゼントするひとと一緒に指輪をつくることを始めた。まさにワークショップだ。「ぬか」に来たひとは必ずと言っていいほど、指輪づくりワークショップを体験する。しょうへいくんは満面の笑顔で、優しく手取り足取り指輪づくりを手ほどきする。ひとつの机にしょうへいくんを囲んで楽しそうにものづくりをしている光景を見ていると微笑ましくもあり、羨ましさもある。ワークショップを体験して指輪をプレゼントされたあとのみんなの顔がすべてを物語っている。とにかくみんないい笑顔。これだけのひとを笑顔にすることができるしょうへいくんは、まさにプロフェッショナルだなと思う。

しょうへいくんにはお決まりの場所がある。日々持ってくるたくさんの荷物と、お気に入りのもの、そしてプラバンを作る道具が置かれた専用の場所。それはまさに

「しょうへいくんのプラバン工場」

まずは、おもてなしをするためのエプロンを付ける。それはしょうへいくんが大好きなシェフと同じ黒のギャルソンエプロン。そして机の上に指輪にするために細長く切ったプラバンをいくつも並べる。窓際にある工場に座り、今日もいまかいまかとお客さんを待っている。
女の子とウハウハ
極上のプレゼント
パフォーマンスも魅力的
工場長と工員たち
しょうへいくんの机
窓際のしょうへいくん
プロフィール
しょうへいくん
1992年生まれ。プラバンをはじめ、ひととの関わりをより楽しむためにしょうへいくんのものづくりがある。歌舞伎や獅子舞など、パフォーマンスもとびきりカッコいい。人を楽しませることにとことん長けている。
「ぬか つくるとこ」からでてくる様々な「かたち」を「ぬかのかたち」と呼んでいる。たとえば、「ぬかびとさん(利用者さん)」の作品展をひらいたり、グッズができたり、ワークショップになったり、1日限定のお店をひらいたり…。日々の「おもしろいこと」や「特徴的なできごと」が抽出されるようにして何かしらの「かたち」になることがある。今回ご紹介する「とだのま」もそんな「ぬかのかたち」の一つだ。

戸田雅夫さん(以下/戸田さん)は「ぬか つくるとこ」へ週に2日来ている。年齢は58歳。律儀でまじめだが、とてもひょうきんでお茶目な人だ。いつも笑顔で優しくて、気の利いた一言で笑わせてくれる。脳性麻痺(受精から生後4週までの間に、脳の損傷によって引き起こされる運動機能の障がいをさす症候群)の影響で言葉が発しづらかったり、歩行にすこしふらつきがあったりする。月に30冊以上の本を読んでいて、ぬかの中でもいちばんの読書家。かばんの中には図書館で借りた本数冊と新聞、ノートとペンがいつも入っていてずっしり重い(軽いときもある)。

ぬかに着くと戸田さんはゆっくりと新聞を読む。片手に朝のウェルカムドリンクを持ってちびちび飲みながら、1面から順に読んでいく。気になった記事を見つけると、ボールペンなどを使いおもむろに筆を入れる。既存の文章に一字足したり引いたりしながら、紙面の言葉を遊んでいくのだ。たとえば…、「こどもエコしんぶん(新聞)」という折り込み特集記事の文字を少し変えて「こどもエゴちんぶん(珍聞)」としていたり。地元のアミューズメントパークの広告で「楽」という文字が大きくあしらわれたデザインを利用して、「くさかんむり/部首」を乗せ「薬」という文字にしてみたり。それは、昔だれもがやったことがあるであろう、教科書にのっている偉人の顔に落書きをするような、気楽でなにげない遊びなのかもしれないが、 既成のモノに少し手を加えることで違った見え方が立ち現れてくることが不思議でおもしろく戸田さんのユーモアセンスが感じられる。 また、時事的な出来事を俳句や文章にしたため書き留めたノートや、戸田さん自作のホームページ「とっぽん君のおうち」も 戸田さんならではの視点が効いている。よければホームページも見てみてほしい。
たい焼き屋の前にて
戸田さんのノート
「ぬか つくるとこ」は古い蔵を改修した建物で、もともとあった家具や民具の中から「みくじ筒(みくじ棒が入っている六角中の入れ物)」が出てきた。何故みくじ筒がそこにあったかは不明だが、年季が入り、味のあるそのみくじ筒の使い道は「とだのま」というおみくじ屋さんで使用されることになる。戸田さんの言葉をおみくじにして販売しようという試みはこのみくじ筒が見つかったことがきっかけだった。
店名は「とだのま」、おみくじの名前は「とだみくじ」、1枚なんと200円。
お客さんは六角柱のいわゆる「みくじ筒」をかちゃかちゃと振る。出てきた木札に書かれた番号を店主の戸田さんに渡すと棚に整然と並べられたおみくじの中から運命のような一枚を(ランダムに)選び抜き、 神妙なおももちで手渡してくれる。とだみくじには通常良く目にする「吉」や「凶」など、その時々の運勢を占う言葉は載っておらず、代わりに、戸田さんが紡いだなにげない一言がそっと直筆で綴られている。些細だけどすこしおかしい。優しくて時に鋭い戸田さんの言葉。おみくじを受け取った人の中には2度引きにくる人もいた。
野外型イベント(UNOICHI)にて初出店
おみくじの内容とこの方の見た目がマッチしているように感じる…
笑顔がすてき
「おみくじ」は多くの人にとって身近ではないが、神社などで年に1度は引く機会があったりと親しみのあるもので、「くじ」というどこか神頼みなところがある。「神頼み」という言葉が表しているようにとだみくじを引く際、幾人かの人は何故だか手を合わせておつげを待っている。くじ棒を引き、おみくじを受け取るまでのつかの間に、手を合わせたくなるのが不思議だ。お客さんの立場からすると、見知らぬ人が 書いた言葉を200円を払って買い、 手紙でもメールでもない意外な形で渡される。それは間違いなくおみくじを引いた私宛の言葉であることに少し戸惑いを感じながら、または、少しわくわくしながらおみくじを受け取る。「見知らぬ人からの言葉を受け取る」その体験が新鮮で実に不可思議なのだ。 「とだのま」は野外型のマルシェや、様々なイベントに出店し、戸田さん本人と、戸田さんの紡ぐとだみくじの妙に魅せられ、当初準備した300枚のとだみくじは完売している。「とだみくじ」が紡がれるまでの間はしばしのおやすみをしているが、また「とだのま」に出会える日は近いかもしれない。
プロフィール
戸田雅夫(とだまさお)
自分が感じた切実な問題、これはちょっと違うぞと言う違和感、自分が感動したことなどをボンヤリ考えるのが好き。週に2日「生活介護事業所 ぬか つくるとこ」へ通っている。ホームページ「とっぽん君のおうち」
丹正 和臣(ぬか つくるとこ)
話しをしたり、ご飯を食べたり、創作意欲がわくときは絵を描いてもいいし、家族へ手紙を書いてもいい。楽器もそこそこあるので音楽もできるし、粘土を触ったり、そこにいる仲間と新しい遊びを考えるのもいい。または、ひがな1日ぼーっと寝て過ごすのも素敵だ。

「ぬか つくるとこ」は、岡山県早島町にある生活介護事業所だ。2013年12月に開所して2年半ほどが経った。
「生活介護事業所」とは、比較的重度の障がいをもっているとされる人が日中(9:00〜15:30)通う場所のことだ。全国各地にあり、この原稿を読んでくれているあなたの家の近くにもあるかもしれない。「ぬか つくるとこ」の特徴を一言でいうと、「やりたいことを無理せずできる場所」、または「そんな雰囲気があるところ」ということだと思う。「ぬか つくるとこ」に通う人たちは年齢も特徴もさまざま。現在は18歳〜65歳までの人が1日に20名ほど集まる。その中には自閉症と呼ばれる人がいたり、統合失調症といわれる人がいたり、ダウン症や元アル中の人がいたり、週に1日来る人もいれば、毎日来る人もいる。陽気な人もいれば、元気のない人もいる。当たり前だが、「ぬか つくるとこ」にいる人たちそれぞれの「やりたいこと/やりたくないこと」はそれぞれみんな違うのだ。そのさまざまな「違い」が築100年以上の比較的大きくない蔵のなかでひしめきあっている。
金色のタイツを来たスタッフが働いている…(運が良ければ会えるかもしれない)
日がな一日横になって過ごすのもイイかんじ
ソファーでのんびり
「ぬか つくるとこ」の名前の由来である「ぬか」は、漬け物などを漬けて発酵させる「ぬか床」からつけた。「ぬか」は、 穀物を磨いて白くする際に出る果皮、種皮、胚芽のことで、お米の場合、白米を得るために捨てられる「不要な部分」が「ぬか」にあたる。けれど、油分が多く栄養化が高いため、古くから日本人の生活の中で重宝されてきた。ぬか床で漬物をつけはじめると、毎日ぬか床を「混ぜる」という作業が生まれる。空気を入れ、手の常在菌で発酵させなければおいしい漬物は作れない。そのため、手をかけ愛情を注ぐが、仕上がる漬物の味はその都度の気温や菌の状態など、自然なものに「委ねてみないとわからない」のだ。

人の手をかけながら自然の力で発酵し、不要だと思われていたけれど実はとても有益な「ぬか」。この「ぬか」の有り様が福祉や障がい、または今の社会を新しい視点で見るきっかけになるのではないかと思い、「ぬか つくるとこ」という名前をつけた。「つくるとこ」には、「ものづくりができる場所、人や社会との関係をつくる場所」という思いを込めている。非常に紛らわしいが、断じて「ぬか」を「つくっているとこ」ではない。また、個々の「違い」を「ぬか床」でふつふつと「発酵」し、美味しく、または予想だにしない味の漬物がつけられるような、芳醇な「ぬか床/場所」を目指したいと思っている。
スタッフとぬかびとの愛のカタチ?
散歩やドライブなどの外出にもよくでかけている
チェック柄の服を来た人が多い部屋…(たまたまです)
絵を描いたり描かなかったり
チンドン屋を目指して特訓中
ここでは、よく言葉遊びをする。例えば、利用者さんのことを「ぬかびとさん」と呼んだり、スタッフが参加する会議のことを「ぬかばなし」、利用者さんどうしの会議を「ぬかるみ討論会」と名付けている。来客が楽しさのあまりなかなか帰れなくなることを「ぬかるみにはまる」と言っていたりしていて、「ぬか」という平仮名2文字のシンプルな響きが、新しい造語の誕生を誘ってくるかのようで楽しい。なかでも「ぬかびとさん」は個性豊かな方が多く、「ぬか つくるとこ」での日常は笑いと涙と感嘆の連続なのだ。

ここで一人、紹介したい素敵な「ぬかびとさん(利用者さん)」がいる。渡辺晴美さん(以下/はるみさん)は「ぬか つくるとこ」の近く、同じ町内にご両親と住んでいて、年齢は40歳ほど。「ぬか つくるとこ」には、週に2、3回来ている。
はるみさんとのコミュニケーションは唐突に始まる。特に初対面の方との出会いはお互いにとって意外な展開を生む場合が多い。はるみさんは初対面の相手に対しても、10年来の知人のように振る舞い、相手の顔を見ると、ぱたぱたと近寄ってきて名前も聞かずに、自分の名前も明かさずに(つまり自己紹介なしに)話を進めていく。
例えば、「山本さんよう来たなー(相手の方は山本さんという名前ではない)」「この前病院で会うたがなー(病院で会っていない)」「先生になんか言われたん?(先生…!?)」「あの人ひでーことするんでー(ひどいこと????)」などなど。会話が突如として始まり、こちらの戸惑いや「?」マークは無視されていく。全ては突然始まった演劇なのだ。「はるみ劇場」。その劇場に立ったまま役者を演じるか、または舞台を降りて観客となるかは自由に選ぶことができる。
はるみさんと一緒に外出すると楽しい。お店では店員さんに1000円の商品を100円にしてもらおうと迫ったり、道端では外国の方にばりばりの日本語で話しかけ、ローカルな話題でなんとなく通じ合ってみたり。工事現場で働かれているであろう出で立ちの少し怖そうなお兄さん5人組に話しかけ、笑顔で話したこともあった。はるみさんの演劇的で突発的なコミュニケーションは、身近にいる私たちの予想をはるかに超えて、いろんな人に通じ合っていく。そして、はるみさんの関わりと比べ、私たちが当たり前に行っている挨拶や建前、モラルのようなものが出会いの場においていかに儀礼的なものなのかを考えさせられる。
ある日の朝、自宅ではるみさんが倒れた。「救急車ではこばれたんじゃ」と、お母さんが慌てた様子で教えてくれた。
近くの大学病院で診てももらったところ、 幸い命に別状はないということがわかり、肩をなでおろした。しかし、しばし入院が必要なはるみさんのため「ぬか つくるとこ」のみんなで、「自分の写真を見ることが好きなはるみさんに、はるみさんのポスターを作ってお見舞いに行こう」と、ポスターを制作。そのポスターには「HARUMICATION save the world/渡辺晴美さんのコミュニケーションは世界を救う」と書かれている。
私たちは普段からはるみさんのコミュニケーションを、「はるみさん」と「コミュニケーション」を足して「ハルミケーション」と呼んでいて、「ハルミケーションは、実は世界を救う手がかりになるんじゃないのか?」、または「あまりに合理的で明白なこの世界を救ってくれるのではないか?」と、半ば大げさ&ダイナミックに捉え、冗談半分、本気半分で「ハルミケーション」という言葉を使っている。 はるみさんは1カ月ほどで退院をして、今は元気に過ごされている。

実際に渡辺晴美さんに出会い「ハルミケーション」を体感してもらえたら話がはやい。「ぬか つくるとこ」には他にも面白い人たちがたくさんいる。やっぱり「人っておもしろいなぁ」と思う現場が毎日そこにある。この「BRIGE STORY」という場所をお借りして、次回からも「ぬかびと」や「ぬか つくるとこ」から出てきた「ぬかのかたち」をご紹介できたら嬉しく思う。
また、この記事を読んで実際に「ぬか つくるとこ」に足を運んでいただけたら、尚のこと嬉しい。
われらが渡辺晴美さん!
渡辺晴美さんの入院中に「お見舞い」として制作したポスター
中野 厚志 Atsushi NAKANO
1972年生まれ。福祉系の大学を卒業後、15年間岡山県内の障がい者支援施設に勤務。その頃から障がいを持った人たちから生み出される数々のモノたちに衝撃を受ける。2013年12月、仲間とともに岡山県都窪郡早島町の築100年以上の蔵を改装した建物で生活介護事業所「ぬか つくるとこ」を立ち上げ、現在に至る。
アートを一つの媒体として、個々の個性や特性をうま味に変化すべく、現在発酵中。

丹正 和臣 Kazuomi TANJYO
奈良生まれ。倉敷市在住。木彫りの犬に車輪をつけ散歩をさせながらコミュニケーションをはかる「犬のさんぽプロジェクト」など、自分と他者 との“間”を感じさせてくれるかけがえのないものとしてアートを感じ活動している。2011年からフリーのデザイナーとして活動。通所施設に美術講師として5年関わる。「生活介護事業所 ぬか つくるとこの」(岡山県)の立ち上げメンバーの一人として2013年から勤務している。
http://nuca.jp/

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